本来なら、いまアメリカが叩くべきは北朝鮮の金正恩政権のはずである。自由も民主主義もないばかりか国民は困窮して飢餓に苦しみ、人権は完全に無視されている。さらにサダム・フセインと違って、核兵器とアメリカ本土にも届くと豪語する弾道ミサイル開発を誇示・挑発している。
2002年に当時のジョージ・ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と呼んだイラク、イラン、北朝鮮のうち、まだ敵対国として残っているのは北朝鮮だけである。もしアメリカが本気になって北朝鮮問題を解決しようとすればできると思うが、手をこまぬいている。なぜなら、北朝鮮はアメリカ国内の政治テーマにならないからだ。国内の政治テーマとしてはイスラエル、イラン、サウジアラビアなどの中東問題が最優先なのである。
これらを全部足してみると、G1だったアメリカが自ら崩れて、ブレマー氏の言う「Gゼロ」になったことがわかる。アメリカ外交には何の哲学も節操もないのであり、いま起きている世界の混乱は、すべてそこに端を発しているのだ。
※週刊ポスト2016年2月26日号