◆「私は正義感で……」
しかし2014年8月、東京地裁は吉松氏側の申し立てを退ける判決を下した。
「ストーカー行為や脅迫被害の証拠能力が不十分だとみなされたようです。逆に、今度はA氏側が“事実無根の被害告発により名誉を毀損された”と1億円以上の損害賠償を求めて反訴した」(芸能事務所関係者)
それでも、昭恵夫人のスタンスは変わらなかった。昨年11月に出版した著書『「私」を生きる』でも、〈偶然の投稿から始まった女性を守る戦い〉と題して吉松氏について触れている。〈私は「悩みを抱えている女性と一緒に戦いたいと思っているので、何かあったら守ってくださいね」と主人にお願いしています。主人も、「大丈夫だよ、俺が守る」と言ってくれました〉と綴り、安倍首相の支援まで取り付けたかのような書きぶりだった。
だが、前述の通り、結果的に吉松氏は一連の被害を撤回し、A氏に謝罪した。吉松氏に和解に至った経緯を取材すべく問い合わせたが、期日までに回答は得られなかった。A氏はこう言う。
「脅迫やストーカーなど、これまでの事実無根の発言のすべてが撤回された。吉松さんをストーカー被害者のシンボルとして支援してきた昭恵夫人は、その前提となる事実が違っていたのだから、何かしら謝罪があるべきだと思います」
昭恵夫人に聞いた。
「吉松さんは戦いに疲れたんだと思う。ストーカー行為がどうであったかは別にして、彼女自身がストーカーされていると思い、苦しんでいたことは事実なわけです。それは(被害を)受ける側の問題だと思っていて……やった方は“そんなつもりはない”と思っていても、受ける人がそう感じていたら、私は無視していい問題ではないと思う」
──A氏は謝罪を求めているようだが。
「繰り返しになりますが、吉松さんが苦しんでいたのは事実で、そういう女性がいれば私は助けてあげたい。当時はマスコミも報じてくれなくて、私は正義感で行動したわけで……裁判で結果が出た以上、もうお話しすることはありません」
女性のストーカー被害を問題提起するために吉松氏を支援してきた昭恵夫人の活動自体は否定されるべきではないが、不本意な結末を迎えてしまったようだ。
昭恵夫人は前述の著書で〈(ストーカー被害の)対策は急務〉と綴っているが、自ら拡散させた“風評被害”の解消にも「迅速な対策」が必要ではないか。
※週刊ポスト2016年3月4日号