ヨーロッパ側は、すぐさまロシア政府に対してスピーディかつ正義を重んずる調査結果を出すよう厳しい決議書を送った。しかしプーチンに握られているロシアはそんなことは屁とも思わない。事件に対するロシア政府の対応は、いつものようにカタツムリのようなものだった。3人の容疑者を捕まえたが、明らかにポリトコフスカヤ暗殺の真相とはかけ離れていた。
無理矢理の捜査であることは明らかだった。2009年、3人は陪審員により無罪となった。のちに最高裁が再捜査を命じ、彼らを含む5人に有罪判決が下るが、黒幕がプーチンであることは明白だ。
プーチンがそういう人物だからこそ、ウィリアム・ペリーは「米ロ戦争」にまで言及したのだ。決定的なのは、プーチンの暴走を止めるべきオバマに、その能力がまったく備わっていないことだ。
かつてジョン・F・ケネディは、第三次世界大戦前夜まで緊迫化したキューバ危機を巧みな交渉力と理性、そして実行力で切り抜けた。ケネディには、当時のソ連最高指導者・フルシチョフを説得し、思いとどまらせるだけの力があった。翻ってオバマはどうか。プーチンがクリミアに侵攻し、中国が南シナ海で暴れ回り、世界がテロの恐怖に晒されている中で、まったく指導力を発揮できていない。
ペリーは講演の中で、「世界のどこかに、核爆弾が落ちるかもしれない」「世界中のテロリストが、いま劣化ウランを集めている。イエローケーキ(ウランを大量に含む黄色い粉末)も持っている。もし劣化ウラン弾がアメリカの都市に落ちたら、8万人規模の犠牲者が出る」とも語っている。彼は冷戦時代から核戦争の脅威を研究し、核軍縮を進めてきた専門家だ。そのペリーが「核爆弾が落ちる」と懸念するのは、説得力がある。
アメリカがこの体たらくなら、プーチンが引き起こす“現代のキューバ危機”は止めることができないだろう。テロリストの劣化ウラン弾は日本で炸裂する可能性もある。平和ボケしている日本人には、その危機感がまったくない。
※SAPIO2016年3月号