ライフ

「缶つま」が牽引する缶詰人気 肉ブームを上回る伸び

酒のつまみに缶詰人気(jEss / PIXTA)

「缶詰」が人気だという。その人気の源はなにか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
「食」は流行に左右される。そのなかで腰の強いものが、日常の食文化として定着していく。その中には新しい食文化として定着するものもあるし、もともと日常の風景にありながら見過ごされてきたものもある。

 例えば「魚介の缶詰」である。先日、総務省が発表した2015年の家計調査(総世帯)によると、この10年で家計に占める消費支出は319万8092円から296万5515円へと7%以上ダウンしている。15%以上消費が伸びた肉類を除いては、穀類や魚介類などほとんどの分類で消費は抑えられているが、この数年、缶詰の伸び率が大きい。

 年間支出で見ると、2005年の1957円から2010年には1896円まで消費が落ち込んだが、東日本大震災が起きた2011年には1926円と持ち直した。2012年には1870円と反落したが、この年が底。以降、2013年1950円、2014年2074円、2015年2155円と、この数年の伸びは肉類を上回る。

 その勢いを牽引するのは「缶つま」だ。従来、保存用の素材だった魚介類の缶詰に味つけをほどこし、そのまま「つまみ」になる缶詰がこの数年、充実の一途をたどっている。きっかけは2010年に大手の国分が「K&K缶つま」シリーズを発売したこと。その後同社は、シリーズを拡充。現在、同社だけでもマーケットは数十億円規模にまで拡大。他の主要缶詰メーカーからも「プレミアムグルメ缶詰」が続々と発売された。

 今年に入ってからも、明治屋が「国産焼き鯖の香味野菜マリネ」「国産燻製しめ鯖のオリーブ油漬け」などを発売、日本ハムグループの宝幸も「八戸港水揚げ」のさば缶シリーズを展開している。

 もっとも「缶つま」の現在の盛り上がりは、メーカーの提案力だけによるものではない。そもそも、アウトドアなどにおける缶詰料理の歴史もある。さらに2008年ごろからは、東京都世田谷区の経堂の居酒屋で提供されていた、「さば缶ネギバター醤油」というメニューが口火となって、「経堂をサバ缶の街にするプロジェクト」も立ち上がった。

 このプロジェクトがきっかけで、経堂の飲食店十数軒でオリジナルの「さば缶」メニューが提供されるようになった。その縁が、2011年の東日本大震災後で被災した水産メーカーの缶詰をがれきのなかから掘り起こし、洗浄して活用するという運動にもつながっていった。現在の「缶つま」の隆盛は、生活のなかで連綿とつむがれてきた土台の上に築かれている。

「世界一のグルメ都市、東京」などの華やかなキャッチフレーズに美食や美酒に酔うのもいい。だが、その土台にあるのは、われわれの食や生への執着であり、身近な食べ物に工夫を凝らす国民性だ。コンビニやスーパーでみかける缶詰を「たかが」と捨て置くのではなく、食卓にどう展開するか、想像力を働かせてみる。日常を豊かにするのは、いつも身の回りの小さなものなのだ。

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン