国際情報

中国 チベット自治区の遊牧は野蛮と強制移住実行

ロブサン・センゲ首相

 チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相は本インタビューに応じ、チベット人対し、僧侶で、一般市民を問わず、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が中国当局によって行われていると語った。隣組制度を作り相互監視させたり、中国人の移住を進めて結婚を奨励する「混血政策」といった政策も行っている。それ以外にも環境破壊など深刻な問題も起きているという。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

 * * *
 最近、問題視されているのが中国によるチベット高原の環境破壊だ。これまでチベット自治区では約225万人がチベット固有の遊牧生活を送ってきていたが、中国はこれを「野蛮」と禁止。

 コンクリート製のバラック建て住居が多数建設されている「キャンプ」へ遊牧民を強制移住させる計画が実行され、2011年1月には、143万人の農民と遊牧民がキャンプに移住した、と中国政府は発表している。移住に伴って接収した土地は「環境保護」の名目でダム開発や採掘が行われている。現在、政府による「牧草地の農地改造政策」施行により牧草地は過放牧となり、砂漠化がすすんでいる。

 乱開発によって、温暖化が進み、氷河が消滅しつつあることも、国際的な環境団体によって警鐘が鳴らされている。

 センゲ氏によれば、このままの状況が続けば、2050年までにチベット高原の3分の2の氷河が溶けてしまうという。

 そして、「アジアにはチベット高原の氷河を源流とする大きな河川が、ガンジス川や揚子江、黄河など10以上あり、20億人以上の水源となっているだけに、中国によるチベット高原の乱開発や人口増によって、さらに温暖化が進めば、将来的に貴重な水資源が失われることになりかねない」と警告を発する。

 センゲ氏は「私は1996年から、15年間、ハーバード大学で学び、その間、中国人学生から大学教授、政府要人ら多数の中国人と知り合ったが、彼らは私がチベット人だと知ると『ロブサン、お前が中国に来ても、絶対に私と連絡を取るなよ。メールもだめだ。そうなれば、官憲が私たちをマークし、私たちの将来はなくなってしまう』と心配していた」との個人的な体験談を語った。そのうえで、こう強調した。

「中国におけるチベット問題は極めて敏感な問題だ。ダライ・ラマ法王はこのような悲劇的な状態を終わらせるためには『中国との対話しかない』と主張している。習近平指導部は話し合いを拒否するのではなく、多くの問題解決のため、できるだけ早くわれわれとの対話に応じるべきだ」

※SAPIO2016年4月号

関連キーワード

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン