ライフ

読書の魅力は異文化交流 思考の可動域広げる準備運動

 昨今、人々が読書をしなくなったといわれるが、医師の鎌田實氏は本がないと落ち着かないという。鎌田氏が読書の魅力、可能性について語る。

 * * *
「読書離れ」といわれる一方で、“本の虫”はけっこういる。ぼくもその一人だ。本がないと、どうにも落ち着かない。

 読書する時間は、意識してつくる。朝、仕事を始める前の10分、15分でも、けっこう読める。それに移動時間。ぼくは、講演や東北支援のボランティア、イラクの難民キャンプへと、国内外を飛び回っているが、新幹線や飛行機の座席が“図書室”になる。

 最近読んでおもしろかったのは、『教団X』(中村文則著、集英社)。二つの小さな宗教集団が登場する。一つは、フリーセックスのカルト集団。「教団X」といわれている。もう一つは宗教とはいえないような緩い集まり。教祖・松尾の奇妙な話がおもしろい。

 たとえば、脳科学で「意識はどこから生まれるのか」を考えながら、釈迦の涅槃の境地を理解しようとする。137億年前のビッグバンや宇宙を構成する暗黒物質、中身が空洞なハチの巣、その構造と似ている脳神経細胞……イメージを重ねながら、宗教の世界観や神の存在を問う。ラストはいまいちだったが、ダイナミックな構想で人間の心の不思議さを描く中村ワールドに引き込まれた。

 世界でベストセラーになっている『服従』(ミシェル・ウエルベック著、河出書房新社)もおもしろかった。2022年フランスにイスラム教徒の大統領が誕生する、という小説。主人公は、『さかしま』で有名なデカダンスの作家ユイスマンスを研究する40代の教授。彼の人生観や知性を通して、ヨーロッパの近代知性がよくわかるようになっている。

 キーワードは、タイトルでもある「服従」。神に服従することの生きやすさを語り、無制限な自由社会の行き詰まりを描く。想定外の物語に引き込まれ、一日で読み切った。

関連記事

トピックス

伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン