再々婚の連絡がきて、「え? また後妻に入ったの?」と著者が仰天したのは、72歳のリコさんだ。相手は77歳。妻と死別し、子供のいない資産家だという。
25歳で最初の結婚をした相手のことには触れられていないが、その後の相手は相当年上ばかり。48歳のとき「恋愛っていうより義侠心」で糖尿病の72歳の男性と半年間同棲し、看取る。次に「惚れ抜かれた」のが、大腸ガンの5年以内の再発率が90パーセント以上と医師に告げられていた75歳の男性。55歳で結婚披露宴をした3か月後に新婚旅行先のイギリスで急逝した。傍目には辛いとしか思えない経験があるのに、遠くない将来に看取ることになる可能性の高い相手とまた結婚したのだ。
「愛だったり情だったり寂寥だったり矜持だったりに足を取られたとき、人は不利を承知で結婚をする」と著者は分析する。リコさんからは、先々の不利をも、自分で落とし前をつける覚悟が見てとれる。
ほかに、昭和25年生まれの女性が結婚相談所に登録して「年下」「定収入」「子供がいない」を条件に相手を探し、希望どおりの相手と再婚したケースや、年上の男性とばかりつきあってきた63歳の国際派のインテリ女性が「5歳下の売れない陶芸家」を選んだケースも登場する。
熟年結婚の動機は、経済的な問題か、セクシュアルな欲求か、社会的なステイタスか。やや懐疑的に取材を進めた著者だが、一連の取材後、「やっぱり結婚したら、なんか気持ちに余裕が生まれた」「人生の最後の時間だからこそ、共に歩む男がいてほしいの」と臆面もなく述べる彼女らの気持ちが分かったと書く。
女性の平均寿命が86歳に延び、日常の仕切り直しをする世間的ハードルが低くなった昨今、「幸せ探し」は若い人の特権ではなくなっているのだ。先日読んだ『おひとりさまの最期』(上野千鶴子著)で、人生の幕引きまで一人で生きる心得と術を知ったが、能動的な選択肢は多くて構わないとも思う。
読了後、ジムに行くと、溌剌とトレーニングする年配女性たちが登場人物と重なって見えてきた。熟年婚し、後妻になっている人は意外と多いのかもしれない。
本書には、結婚相談所や法律事務所、婦人科クリニック、エステなど、熟年婚・後妻への道を選ぶ人たちに必要(かもしれない)な箇所のリサーチも載っている。
※女性セブン2016年4月14日号