その最大のものが、昨年実施した中国最大の国有複合企業CITIC(中国中信集団)への出資だ。タイのCPグループと合わせて出資額は1兆2000億円にのぼる。東京大学時代に岡藤氏と同じゼミに所属していた小川孔輔・法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授は、この挑戦を評価する。
「大きなリスク要因と見なされていますが、中国は今後も消費財の最終消費地として巨大なマーケットであり続けるので、伊藤忠にも巨大な利益をもたらす。彼はそれに賭けたのでしょう。私も実を結ぶと思います」
結果如何では、10年にも及ぶ長期政権も見えてくる。ジャーナリスト・有森隆氏はこう見る。
「続投の期間は明言されていませんが、おそらく2年でしょう。それで首位を固める。もし2年経っても安泰でなければ、さらに2年、計10年もあり得ます」(続投期間について伊藤忠は「経営課題に目途がつくまで」と回答)
岡藤氏は原油やLNG(液化天然ガス)など資源に力を入れる財閥系商社に対し、“非資源ナンバーワン商社”をスローガンに掲げてきた。
「象徴的なのは、社長応接室に額装して飾られている『か・け・ふ』の3文字です。これは、『稼ぐ』『削る』『防ぐ』の頭文字。商いの原理原則を日々、実践するという宣言なのでしょう」(専門紙記者)
非資源分野で「稼ぐ」、労働の無駄を「削る」──今後、天才商人はどんな策で首位陥落を「防ぐ」のだろうか。
※週刊ポスト2016年4月15日号