慰安婦記念館。簡素な外観からは、つましい印象を受ける
◆中国共産党とは共闘せず
ここで、尖閣諸島(台湾名:釣魚台)をめぐる日台間の諍いをおさらいしておこう。
2012年9月、当時の野田内閣が打ち出した尖閣諸島の国有化方針に反発し、中国では大規模な反日デモが起きた。一方、同じく島の領有権を主張している台湾でも抗議の声が上がり、「保釣」(尖閣防衛)を訴える政治団体のデモも発生した。加えて、これらの団体以上に強硬な姿勢を見せていたのが蘇澳鎮の漁民たちだった。
同月24日、中華民国国旗を掲げた漁船70隻以上が、「生存のために漁業権を守る」をスローガンに蘇澳鎮を出港。うち一部は翌日、台湾側の巡視船6隻の護衛を受けて尖閣沖の日本領海に侵入し、海保船舶の放水を浴びた。中国の反日デモと足並みをそろえているかに見えるが、実は背景はより複雑だった。
「台北市内でデモを組織した政治団体の動機と、漁民たちの動機にはかなり大きな差異が存在します」
現地メディアに勤務する郭康夫氏(仮名)はそう話す。
「まず、国民党内の親中派などを中心に、日本政府による尖閣国有化方針を『中国(≒中華民国)』の領土問題として怒りを示す動きがありました。なかには中国共産党と共闘する形での保釣運動を望む人々もおり、濃厚な政治的背景が存在していたと言えます」
もっとも、こうした人々が訴える中華民族主義的(=「反日」的)な主張は、中国と心理的に距離を置く人も多い現代の台湾では世論の支持が集まらない。親中派と目される馬英九政権も、世論と対日関係への配慮から、やがて「中国との共闘」を否定する声明を発表。こちらの動きは梯子を外される形となった。
「もう一方は、政治色が薄い漁民による訴えです。そもそも沖縄近海は、台湾が日本領だった時代は自由に出漁できた伝統的な漁場。釣魚台の国有化で日本側の海上警備が強化されると、漁船が海域に立ち入れず産業が成り立たなくなると考えた漁民が多かったのです」(郭氏)
こちらは「中国」ではなく「台湾」の問題だ。党派や対日感情の好悪にかかわらず、世論の支持が広がった。