国内

憲法巡る重鎮たちの「殴り合い」 その激しく熱い内幕

まだ続く法学者のバトル(写真:アフロ)

「熱しやすく醒めやすい」のは日本人の特徴のひとつだが、集団的自衛権を巡る議論はまだ続いている。憲法記念日を前に、憲法オタクのフリーライター・神田憲行氏がレポートする。

 * * *
 集団的自衛権について昨年までは違憲派の押せ押せムードだったが、今年に入り、違憲派に疑問を突きつける動きが広まっている。

 きっかけは元最高裁判事の藤田宙靖・東北大名誉教授が雑誌「自治研究」2月号に掲載した論文「覚え書き-集団的自衛権の行使容認を巡る違憲論議について」だ。藤田氏はこの中で違憲論議が「必ずしも、一貫した精緻な議論が展開されているようには感じられない」として、違憲説を検証して疑問を指摘している。

 この論文に「天啓を得たような感動」と飛び付いたのが、昨年まで国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官を務めていた自民党の礒崎陽輔氏である。昨年、立憲主義について「学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか」とツイートして一躍脚光を浴びた東大法学部卒の礒崎氏は、藤田論文について「一般の皆さんには難しい点もあるので」と、ブログでその内容を要約している。もっとも藤田論文には安倍首相の発言を捉えて「真に謙虚さと節度を欠いた発言ではあるが」など、ところどころ安倍政権の政治的振る舞いに関して苦言を呈しているのだが、これはスルーされているようだ。

 藤田論文に名指しで批判された長谷部恭男・早稲田大教授はかつて出した論文集「憲法の理性」に反論文を掲載してわざわざ増補新版にして出版した。元最高裁判事vs.学会の権威という、憲法オタクにはたまらない重量級の殴り合いである。

 と、ここに、改憲派護憲派ともに石を投げるどころか椅子を投げつける人が現れた。東大で法哲学を教えている井上達夫教授である。3月に出た新著「憲法の涙」(毎日新聞出版)の帯は、

《改憲派も/護憲派も/ウソばっかり!》

《安倍首相も、/護憲派も、/憲法学者ですら、/私のいうことを/聞いてくれない(涙)/-日本国憲法》

 帯の通り、井上教授はありとあらゆる憲法学者を「欺瞞だ」と名指しで指弾していく。

 井上教授は憲法9条の解釈で自衛隊の存在は認められないから9条を削除すべしというのが持論。その立場から自衛隊を違憲としつつ改憲を否定する護憲派を「原理主義的護憲派」、自衛隊を合憲する立場を「修正主義的護憲派」と呼ぶ。

「原理主義的護憲派」については、自衛隊と安保を違憲としながら現状を肯定している姿勢を「欺瞞の蟻地獄でもがいている」と批判。「修正主義的護憲派」には、自ら自衛隊合憲という解釈改憲しながら安倍政権の集団的自衛権を解釈改憲と批判する「政治的欺瞞」と指摘する。

 学者についても手厳しい。前出の長谷部・早大教授を繰り返し何度も批判し、小林節・慶応大学名誉教授は同氏の過去の発言に一貫性が無いことを取り上げて、

《「豹変」名人の小林さんは無視をするとして》

 とスルー技を発揮、東大卒で新進気鋭の木村草太・首都大学東京教授は、

《木村さんは学生時代、私の授業をいつも最前列の席に座って熱心に聴いていたまじめな人だったので、憲法学者になってそこまで堕落したとは信じたくないですがね》

 と嘆いて見せるのである。批判されている先生方は腹立つだろうが、ただの読者のこちらは「よくそんだけ悪口思いつくな」とゲラゲラ笑ってしまう。

トピックス

復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
男気を発揮している松岡昌宏
《国分騒動に新展開》日テレが急転、怒りの松岡昌宏に謝罪 反感や逆風を避けるための対応か、臨床心理士が注目した“情報の発信者”
NEWSポストセブン
水原受刑者のドラマ化が決定した
《水原一平ドラマ化》決定した“ワイスピ監督”はインスタに「大谷応援投稿の過去」…大谷翔平サイドが恐れる「実名での映像化」と「日本配信の可能性」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
熊本県警本部(写真左:時事通信)と林信彦容疑者(53)が勤めていた幼稚園(写真右)
《親族が悲嘆「もう耐えられないんです」》女児へのわいせつ行為で逮捕のベテラン保育士・林信彦容疑者(53)は“2児の父”だった
NEWSポストセブン
リクルート社内の“不正”を告発した社員は解雇後、SNS上で誹謗中傷がやまない状況に
リクルートの“サクラ行為”内部告発者がSNSで誹謗中傷の被害 嫌がらせ投稿の発信源を情報開示した結果は“リクルートが契約する電話番号” 同社の責任が問われる可能性を弁護士が解説
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン