戦前は、イエ制度があった時代。直系家族にイエは引き継がれ、跡取りになる長男が大家族を支える大黒柱としてどっしりと真ん中にいた。妻に与えられた役割は多く、家業を手伝い、子供を産み育て、家事全般をこなす――それを姑などとの同居生活のなかで強いられた。暮らしは決して豊かではなかった。竹蔵がサラリーマンで核家族だった小橋家でもやはり、父親の立場は強かった。
それは、戦後になってイエ制度がなくなった後も長く家族の理想として残っていた。常子ら家族が住み込みで働く仕出し屋「森田屋」の女将・まつを演じる女優の秋野暢子(59才)も、郷愁を感じながらそうしたシーンを演じた。
「幼い頃、食事のときは父が上座にいて、母と兄と私がいました。祖父母、叔父も一緒に暮らしていて、みんなでご飯を食べていました。テレビもなく、食事中は家族でその日の話をしていました。父親には冷えたビールが1本あって、おかずが1品多かった時代です。テレビではわからないかもしれませんが、実はドラマの森田屋の食卓でも、家長の宗吉(ピエール瀧)のおかずは1品多く並べられているんですよ。でも、私が小学生の頃にテレビが家に来て、食卓の風景は変わりましたね。上座の後ろにテレビが置かれたので、父の位置が少しずれましたから(笑い)」
ドラマでは詳しく描かれないが、竹蔵は幼い頃に両親を亡くしているという設定だ。そんな竹蔵が家族との時間を何よりも大切だと考えていることを示す次のシーンは印象的だ。
ある日、竹蔵は仕事のため、月に1度家族で出かける家訓を破ってしまう。二度と家訓は破らないと誓う竹蔵に、妻・君子が、「家族で過ごすことはいつでもできるじゃないですか」と問いかけると、こう語るのだ。
「当たり前の毎日でもそれは、とっても大切な一瞬の積み重ねだと思っています。そしてそれは、いつ失うことになるかわからない。明日かもしれないし、1年後かもしれない」
そこにあるのは、ふだん何気なく過ごしているうちに、つい忘れがちになる、当たり前の日々や日常がいかにありがたいかということ。竹蔵はそれを身をもって知っていたからこそ、決して家族を後回しにしなかった。仕事の犠牲にはしなかった。その強い思いが、“とと姉ちゃん”常子に引き継がれていったのだ。
※女性セブン2016年6月2日号