世界的な景気減速の中でも国際スポーツビジネス市場は不況知らず。電通にとって東京五輪が過去最大の商機になることは間違いない。だからこそ招致への意気込みは強かった。
「リオデジャネイロに敗退した2009年以来、国際的な働きかけが拙いJOCや都庁の尻を叩いてロビー活動を推進してきたのが電通でした」(都庁関係者)
当然、都庁や招致委の「電通頼み」は強くなっていく。2016年五輪招致活動が佳境を迎えていた2009年3月には、東京都議会でこんなやり取りがあった。
招致活動のための基礎調査などが電通に特命随意契約で委託されたことが野党議員から「癒着」と批判されると、石原慎太郎・都知事(当時)は、「電通が持っている影響力は、他の広告会社では及ばない。選ばざるを得ない」と答えた。口調や状況こそ違うが、竹田恒和JOC会長の答弁と同じく“電通に丸投げするしかない”という率直な心情が分かる。
石原氏も認めた「電通の影響力」を端的に示す写真がある。それは、電通の社史(『電通100年史』)に掲載されたもので、撮影は2000年。当時の成田豊・社長と握手を交わす黒人紳士は、今回の疑惑の渦中にいるラミン・ディアク氏だ。ディアク氏はその1年前に国際陸連会長とIOC委員に就任していた。
この2000年から、電通は世界陸上をはじめとした国際陸連が主催する大会の国内テレビ放映権を獲得した。「電通の人脈力」を物語る写真といえる。『電通とFIFA』の著者・田崎健太氏はこう解説する。
「電通は日本では最もIOCの理事や委員にパイプがある企業です。そのため人脈に不安があるJOCは電通に頼らざるを得ない現実がある。招致活動の顔はJOCや招致委であっても、頭脳と手足は電通なのです」
※週刊ポスト2016年6月3日号