「欧米の企業は正規・非正規を問わず職務内容を評価して賃金を決める“職務給”が一般的なので、同一労働同一賃金と調和しやすいのですが、日本はそうではありません。職種別労働市場がないばかりか、同じ仕事や職務であっても異業種や企業規模(大企業と中小企業)による賃金格差もあります。
また、日本企業は年齢や勤続年数で賃金が上がる年功序列型が中心であるうえ、正社員は終身雇用(無期雇用)というだけでボーナスや退職金、家族手当などの諸手当、福利厚生を含めた手厚い処遇を受けています。それが単に時給払いの非正規社員の賃金と同じにするには正社員を含めた賃金体系の見直しが不可欠で、容易なことではないでしょう」(溝上氏)
これでは、いくら安倍政権が不合理な待遇差をなくさせる立派なガイドラインを作成したとしても、画餅に帰すだけだ。前出の溝上氏は同一労働同一賃金実現への近道は、「原則を法律に明文化することで、少しずつ企業努力を促すしかない」と指摘する。
「労働契約法、パート労働法、労働者派遣法の中に〈客観的・合理的な理由がない限り、非正規労働者に不利益な取扱いをしてはならない〉という条文をはっきり明記することで、会社側は賃金差を設ける説明責任を負うことになります。
さらに、労働者が裁判に訴えた場合も、会社側には立証責任が生じ、裁判所が認めなければ賠償義務を負うことにもなります」(溝上氏)
仕事の役割や責任の重さとは具体的に何であるのか──今後はそんな説明が企業側に求められていく時代になる。もっといえば、労働者側も正社員やパートの区別なく自分の仕事の“対価”がダイレクトに跳ね返ってくるシビアな状況になるのだ。最後に溝上氏がいう。
「それは今の時代仕方のないことです。パートでも小売業の店長のように重い仕事をしている人もいますし、正社員の中には転勤することなく地域限定社員のようにパートと同等の仕事をしている人もいる。正社員とパートの違いだけで責任の重さは判断できなくなっているのです。
しかし、たとえ基本給を一緒にしても、成果が違えば評価によって給与の違いが出るのは当然ですし、そこは違法ではありません。逆に成果報酬がなければ誰もが働く気をなくしてしまいますからね」