第二次世界大戦中にナチスの医師が残虐な人体実験を行ないました。冷たい海に落ちた軍人を凍死から救うための低体温実験など、多数のドイツ国民の利益のために少数の被験者を犠牲にしたのでした。これを裁いたのが1946~49年に行なわれたニュルンベルク継続裁判です。
ニュルンベルク裁判は、第二次世界大戦でのドイツの戦争犯罪を裁いた国際軍事裁判で、約1年で終了しました。しかし人体実験等の裁判は、占領していたアメリカが継続して行ないました。これがニュルンベルク継続裁判で、ナチスの医師4人が絞首刑の判決を受けました。そして人体実験を行なう上での倫理原則「ニュルンベルク綱領」が定められました。
ニュルンベルク綱領は10項から成り、その最初が自発的同意という「自己決定権」の尊重です。罪刑法定主義に反しているように誤解されることもありますが、ナチスの医師たちは「人道に反する罪」として裁かれて死刑の判決を受けたのであり、ニュルンベルク綱領は、それ以後に行なわれる人体実験の倫理原則として定められたのでした。
以来、「自己決定権」は生命倫理の基本原則になりましたが、「最大多数の最大幸福」という目標が依然として重要であることに変わりはありません。
●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。 1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。
※週刊ポスト2016年7月15日号