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『カエルの楽園』 読了後じっくり日本を考えさせられる一冊

【5分でわかるベストセラー】
『カエルの楽園』百田尚樹/新潮社/1404円

【評者】
伊藤和弘(フリーライター)

 本書はソクラテスという名のアマガエルを主人公にした小説です。登場するキャラクターはカエルばかりで、人間は出てきません。カエルたちは擬人化され、人間のように会話を交わします。単に「カエルの物語」と受け止めても構わないのですが、こういう小説は「寓話」と呼ばれます。つまり、教訓や風刺をもりこんだたとえ話です。では、ストーリーを紹介しましょう。

 ある春の日、アマガエルの国に凶悪なダルマガエルの群れがやって来ました。多くのアマガエルが食べられてしまい、ソクラテスは60匹の仲間とともに安住の地を求めて旅に出ます。しかし世界は危険に満ち、安心して暮らせる土地などどこにもありません。仲間は次々と命を落とし、ツチガエルの国「ナパージュ」にたどり着けたのはソクラテスとロベルトの2匹だけでした。

 ナパージュはまさに楽園でした。水も食料もたっぷりあり、襲ってくる敵はいません。国民たちはとても親切です。彼らを守っているのは「三戒」でした。「カエルを信じろ」「カエルと争うな」「争うための力を持つな」、この三戒を守る限り、決してほかのカエルたちが攻めてくることはないというのです。

 しかしハンドレッドという嫌われ者の老ガエルによると、この国を守っているのは三戒などではなく、スチームボートという巨大なワシで、彼こそ「この国の本当の支配者」だといいます。早速、ソクラテスはスチームボートに会いに行きました。スチームボートはツチガエルたちに三戒を与え、長いこと外敵から守ってやっていたのですが、「そろそろツチガエルたちも、自分たちのことは自分たちで守ってほしいと思っている」そうです。

 よくよく観察すると、ナパージュはやけに老ガエルが多く、オタマジャクシが少ない国です。メスのカエルたちは、「卵を産んで何かいいことがあるのかしら」といいました。

 ある日、南の崖下の沼に住んでいる巨大なウシガエルが崖を登ってきました。ウシガエルはほかのカエルを食べる恐ろしいやつらです。日を追うごとに、その数は増えていきました。元老の1匹であるプロメテウスがスチームボートに相談に行くと、「ウシガエルを追い払ってやるから一緒に戦え」といわれます。それを聞いた元老たちは怒り、スチームボートをナパージュから追い出してしまいます。

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