子供の進学費用を有名監督の元夫がまさかの略取。どん底から書いて書いて書きまくった著書『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館)が話題となっている作家・夏石鈴子改め鈴木マキコさん(53才)。同書は、主婦なら誰でも身に覚えのある描写が満載、そして読み終える頃には明日を生きる勇気をもらえる、8つの共感ストーリーだ。
鈴木さんはそれまでも、そして今も、出版社に勤める会社員であり、作家だ。2人の子供を育てる母として、PTAにも参加してきたし、ママ友とも交流もしてきた。仕事部屋はなく食卓に座って書きためてきたのが、この『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』だ。同短編小説集には、「あれっ、これって私のこと?」とドキリとしてしまうエピソードが多い。
たとえば、小学校のPTAで役員を決める会議で味わう、あの長い沈黙とその気まずさ。毎日注意しても、同じことを性懲りもなく繰り返す、忘れ物ばかりの、ハズレを引いたとしか思えないわが息子。別に欲しくもないセーターを送りつけてきたり、何の予告もなく、休日に押しかけてくる姑――それらはどこにでもいる平凡な奥さまたちの日常であり、命を失うほどではないけれど、かといってそれぞれに頭を悩ませる大きな問題ともいえる。
しかし、そんな胸にわだかまる思いや意見、怒りがくすぶっていたとしても、たいていは言葉に出すことはない。
「人はみんな、言いたくても言えないことがいっぱいあるものです。たとえば“わが子はハズレ”なんて、絶対に言えないし、言ってはいけないと思うんです。私たちには常識があるし、そんなに無責任にもなれません。でもだからこそ、人間として、いっそう苦しいのだけれど」(鈴木さん)
平気でズバズバ言っちゃって、相手を深く傷つけるのが平気な人もいるかもしれない。だけど、常識のある人なら、やはり沈黙を選ぶ。
「そんな、普通の人が日常の営みで声に出して言えないことを言えるのが、小説だと思うんです。それが字の力です」
不思議なことに、ケースも立場も家庭環境も違うのに、8つあるどのエピソードをとっても、主人公が自分と重なってしまう。読み進めていくうちに、自分の心の中では、知らず知らずのうちに理性が働いて“ああ、これは人として言っちゃいけないことだ”とストップをかけているモヤモヤがあることに気づかされる。それを、この小説を読むことで、「そうだ! 私の胸でくすぶっているのは、こういうことだったんだ!!」とストンとくる。そしてスッキリできる。
※女性セブン2016年8月11日号