大量の汗で仕事や生活に支障をきたす場合は、手術という選択肢もある。背骨の両側を走っている交感神経を、胸腔鏡(きょうくうきょう)を使い、電気メスで遮断する。手術により掌の汗は止まるが代償性発汗といって、発汗がお腹の周りや臀部、太ももなどに移る副作用もある。人によっては、ズボンやスカートがはけないほどの汗が出ることもあり深刻だ。
「神経を遮断すると元に戻らないので、2004年から5ミリのチタン製クリップで神経を挟む手術も実施しています。治療後に代償性発汗が出た場合は、2週間以内に外せば100%神経が回復します。1年、2年と年月が経つにつれ、神経の回復が難しくなります」(安部部長)
手術は全身麻酔で、通常は右側の脇の下を3~4ミリ切開し、肺を傷つけないように胸内に二酸化炭素ガスを入れて肺を圧迫しながら小さくする。2つの穴から内視鏡とクリップを入れ、胸膜から交感神経を取り出し、クリップで挟む。左側も同様に行ない、手術時間は20~45分程度だ。
体幹部に起こる代償性発汗は、温熱性発汗に変化するため、どの程度発汗するかを確かめるために手術は夏場に行なう。多汗症に関して手術するかどうかは、その必要性と副作用に対する知識など総合的に考慮し、専門医と相談の上、決めることが重要だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年8月12日号