では、「良い政治」なのか「悪い政治」なのかは知らないが、ずばり政治そのものである日本共産党指導下の「歌声運動」で歌われた和製革命歌、和製労働運動歌に、こうした名曲はあるのか。『がんばろう』や『沖縄を返せ』が名曲だとは、とても思えない。
一方、昨今こうした運動の中でなぜか忘れられ歌われなくなった『憎しみのるつぼ』は、どうか。
「憎しみのるつぼに 赤く焼くる
くろがねの剣を うちきたえよ
くろがねの剣を うちきたえよ」(E・ラージン作、鹿地亘訳)
こんなに短い曲でありながら、それ故に簡潔で力強く、魂をふるわせる名曲である。特に男声合唱がすばらしい。ただちに武器を手に敵陣に殴り込みたくなるほどだ。憎しみを歌うことがこんなに人を感動させるほど、音楽は力を持っている。反ヘイト運動をやっている人たちよ、『憎しみのるつぼ』を忘れるな。ヘイトが先にこれを歌い出したらまずくないか。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号