「僕が一生懸命勝たせようと思ってやってることを、Qちゃんは全て受け入れてくれたの。命がけでね」
ところが、高橋が独立した後のこの10年余りは、全てを受け入れてくれる選手とは出会えなくなっていった。
「本当にやりにくくなったよね。人種が変わったようだよ。昔は弱い子でも五輪に行きたいと言ったもんだけど、今は給料貰えて適当にやれればいいという子が増えた。いくら引っ張っていこうとしても、私はやりません、と。そういう時代だよ。会社も監督の言うことを聞くように仕向けてくれればいいけど、選手の言うことを聞いちゃう。お恥ずかしい話、俺も少し優しくなって周囲のご機嫌とるようになったら、いい選手が出なくなっちゃった」
──もうやめよう、と思ったことは?
「いや、俺はしつこいから。じーと待ってた。本当に俺は陸上が好きなんだよ! 駆けっこを取られたら死んだほうがいいと思ってやってきたから」(文中敬称略)
【PROFILE】こいでよしお/1939年、千葉県生まれ。順天堂大学体育学部卒業。卒業後は23年間、市立船橋高などで教鞭をとり、全国高校駅伝にチームを導く。1988年より実業団で指導。有森裕子、高橋尚子などメダリストを輩出した。2002年に佐倉アスリート倶楽部設立。
●聞き手/高川武将(ルポライター ) 撮影/横田紋子
※SAPIO2016年9月号