西宮市産所公園には不要になった踏切の展示がある
先述した宇治市の勝手踏切も、長らく地元住民が使用してきた。それだけに勝手踏切の廃止を行政が通告しても、地元住民たちは生活に必要だからといった理由で存続の署名を集めていた。住民にとって勝手踏切は生活インフラそのものだった。
勝手踏切をめぐる鉄道事業者・道路管理者と地域住民との諍いは、宇治市だけに限った話ではない。日本全国に国土交通省が正式に認めた踏切の数は、約3万3000。対して、勝手踏切の数は約1万9000もある。日本の大動脈でもある東海道本線にも、勝手踏切は多数存在する。
しかし、勝手につくられた踏切なので警報機や遮断機のような安全設備はない。列車が近づいてきても、横断者が注意するしか術がない。そうした勝手踏切に対して、国土交通省はどのように見ているのだろうか?
「勝手踏切は踏切ではありません。なので、国が安全対策を施すことはありません。とにかく、廃止・封鎖することが第一です」(国土交通省鉄道局施設課)
国土交通省の言い分は、正論と言えば正論なのかもしれない。しかし、実際に1万9000もの勝手踏切が存在し、行政は頭を悩ませている。勝手踏切の存在は、国会でも取り上げられるほど社会問題化しているのだから、なにかしらの安全対策が必要のようにも思えるのだが…。
「勝手踏切を使用しないように、鉄道事業者や道路管理者が注意喚起の看板を設置するなどの対策はしています。勝手踏切は踏切ではないので、これらを廃止するための補助金などは計上していません」(同)
勝手踏切対策は、鉄道事業者や道路管理者に丸投げされているのが実情のようだ。