雑誌『経済界』編集局長の関慎夫氏は、こうした創業家の意志や立場に疑問を投げかける。
「出光は少し前まで日本型経営の象徴で、社員は解雇しない、労働組合は作らせない、定年も設けないという“家族経営”を貫きながら会社を発展させてきました。それは紛れもなく出光家の大きな功績です。
しかし、上場してパブリックカンパニーとなった今は、創業家以外の株主も圧倒的に多いわけですし、石油市場がどんどん縮小していく中にあっては合従連衡も避けられない問題といえます。そんな時に経営の第一線から離れている創業家が自らの意志や立場だけで合併に反対しているのだとしたら、あまりに近視眼的だと思います」
その一方で、「規模を追求するだけの合併は、多少の延命措置に過ぎない」と指摘するのは、前出の松崎氏だ。
「もはや石油の元売り単体でやっていくのは難しい時代。オイルに付加価値をつけて売れるような関連事業を多角的に展開できなければジリ貧になるだけです。そんな構造不況に陥っているうえに同業他社と一緒になって、どのくらい相乗効果が見込めるかは疑問です。早晩、人員やサービスステーションのリストラも避けられなくなるでしょう」
現在、創業家は昭介氏が昭和シェル株の約0.1%を取得し、経営側の同社株取得を阻止しようと対抗策を講じている。もし、このまま合併話が破談になれば、出光は独力で生き残る道を模索するしかないが、創業家とのわだかまりが解けぬままでは、再び大きな転機を逃すことにもなろう。
「出光にとって創業家は精神的支柱であることに変わりはなく、今後も出光家を無視して何かを決めようとは現経営陣も思っていないはず。2006年に上場した際も、当時の天坊昭彦社長が反対する創業家を粘り強く説得して会社を立て直しましたからね」(松崎氏)
言った言わない──の醜い「お家騒動」がこれ以上長引けば、出光ブランドの威信が失墜するばかりか、企業全体の屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。