◆2校は完全なライバルになった
とはいえ、このところの横浜初等部の評価はうなぎ登りである。その理由は、幼稚舎とは異なる教育方針による。
幼稚舎では伝統的に「勉強は家庭の責任」とされ、まったく宿題を出さないクラスも多いと聞く。これに対して横浜初等部ではしっかり勉強させる方針で、宿題も1年生から出るという。
実際、幼稚舎の卒業生が普通部・中等部の勉強についていけず、ドロップアウトする例が珍しくない。そうした親の不安を、横浜初等部は解消してくれる。今では幼稚舎と横浜の両方に合格すると、横浜を選ぶ子供も少なくない。2校は完全なライバル校になったといえる[編集部注:これらの点について慶應義塾広報室に確認したところ、回答が得られなかった]。
創設者・福澤諭吉が唱えた、塾生同士が助け合う「社中協力」が慶應義塾の伝統。OB組織・三田会の強固なつながりは、それが体現されたものだ。反面、社会に出てからもOB同士でまとまる傾向があるために、慶應内部での細かい序列意識が助長されるのもまた事実。「人の上に人をつくらず」と唱えた創設者の言葉を、もう一度捉え直してみる時期なのかもしれない。
【PROFILE】石井至●1965年北海道生まれ。東京大学医学部卒。小学校受験・幼稚園受験のための「アンテナ・プレスクール」校長。『慶應幼稚舎と慶應横浜初等部』(朝日新書)など著書多数。
※SAPIO2016年9月号