日本がボーッとしている間に、世界はどんどん混迷の度を深めている。テロリスト集団のIS(イスラム国)には、同じスンニ派のサウジアラビアやクウェートが裏で巨額の資金を支援している。さらにトルコも、ISの石油密売を認める形で、陰に陽にテロリストたちを支えている。
ISの支配地域は少しずつ狭まってはいるが、資金力は決して衰えていないのだ。
1990年代に予想した「テロリズムの時代」は現実になってしまった。しかし、ソ連と並ぶもう一つの大国であったアメリカも、もうテロを抑える力を失っている。
それどころかアメリカでは、白人警官が黒人を射殺し、それに対して黒人が報復としてデモの最中に白人警官5人を狙撃し殺害するという事件が起きた。国内の人種差別問題すら対処できなくなってしまったのだ。オバマこそ人種差別問題にリーダーシップを発揮すべきなのに、彼は何も有効な手立てを打てないでいる。
オバマの後継を決める大統領選も、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンという史上最低レベルの戦いになってしまった。彼らにテロリストを抑えられるわけがない。
アメリカの軍事費は約6000億ドル。日本円で60兆円以上だ。日本の10倍以上、中国と比べても約3倍となっている。これだけの軍事費を注ぎ込めば、テロを抑え込むことは本来不可能ではない。しかし、リーダーがやろうとしないからやれないのだ。
私は、テロリストが起こす「第三次世界大戦」を危惧している。
テロリストには「宣戦布告」も「戦時国際法」という概念もない。国家同士の戦争なら、負傷者や衛生要員、宗教要員を攻撃することを禁止し、民間人を無差別に殺害するような攻撃も禁じられている。しかし、テロリストはそうした“戦時ルール”をすべて無視して攻撃を仕掛けてくるだろう。
また、テロリストは何の責任も取らないし、取らせることもできない。そもそも、戦争がいつ終わったかも明確にはならない。勝利したと思ったらまた都市部でテロが起きて、民間人が大量殺戮される。そんな無間地獄が待っているのだ。
日本人は、そうしたテロ戦争の時代に生きていく覚悟があるだろうか。悠長に「改憲派が3分の2を超えた」などと言っている場合ではないのだ。
※SAPIO2016年9月号