この「うつぶせユラユラ」を考案した山岸・舟波の両氏は、長野県内の総合病院や独立後に開設した施術センターで、延べ10万人をケアしてきた経験を持つ。また、肩書は同じでも、山岸は運動器(骨や関節、筋肉など)の、舟波は神経のスペシャリストだ。
また、2人とも国家資格を要する「リハビリのプロ」である理学療法士だ。ケガや病気で衰えた運動機能の回復訓練をする専門職であり、近年は介護の現場でも、寝たきり予防や起立・歩行練習を施す理学療法士の需要が目立つ。
ただ、そんな2人でさえ、ほとんどの患者が訴える「痛み」という目に見えない不快感を取り除く術には難しさを感じていた。
それが6年前、「痛みは肩や腰など、痛みを感じている部分の筋肉で起きているのではない」「痛みは脳で刺激を感じた反応である」という見解で一致。これが「うつぶせユラユラ」の考案につながった。
痛みがつらい時、私たちは強く押したり、揉んだり、叩いたりしないだろうか。しかし、そんなことをしても一時しのぎに過ぎないことは誰もが知っている。両氏が着目したのは、「膜組織」へのアプローチと「腹圧」の調整だ。
「膜組織」とは、『ためしてガッテン』や『あさイチ』(ともにNHK)で取り上げられて話題の「筋膜」をはじめ、骨を包む骨膜、関節を包む関節包など、膜で覆われた組織の総称である。そもそも人体は筋肉のみならず、内臓、血管や神経、靭帯や腱など、あらゆる部位が膜で覆われており、この膜組織が体内でネットワークを張っているという。
両氏の共著『痛みはうつぶせで治しなさい』(小学館)には、魚肉ソーセージを例に「膜組織が柔らかければ、このソーセージのように(筋肉も)柔らかく動くことができる」と説明があり、わかりやすい。
一方、「腹圧」とは腹腔内の圧力であり、これが低下すると脳が痛みを感じやすくなるという。というのも、腹部は他の部位と異なり骨格で守られていない。内臓を支えているのは膜組織のみで、固くなると臓器の動きも悪くなり、腹圧が低下。これが神経伝達によって脳に伝わり、「痛み」という反応を警告として表出させるのだという。
うつぶせになることで腹圧が高まり、お尻を動かすことで膜組織の緊張がほぐれる。それが全身に伝わり、体と脳のリズムが整えられる。これを続けていれば、健康寿命を延ばすことも見込めるとか。おおざっぱな解釈だが、「うつぶせユラユラ」にはそのような効果が期待される。