──(同席していた件の編集者氏に)えっ、そんなことをおっしゃったんですか!
編集者氏:も、もちろん今は、伊勢うどんの魅力に目を見開かされて改心しております。
──よかったです。津原さんが伊勢うどんを知ったのは、永六輔さんがラジオで「美味しいんだ。大好きなんだ」と仰っているのを聞いたのがきっかけだとか。
津原:ラジオで聞いたのはかなり前ですが、以来、憧れの食でした。3年ほど前に松阪のエスカルゴ牧場を取材で訪れた際、伊勢にも足を伸ばして初めて食べましたが、期待以上のおいしさでした。感想をひと言でいうと「そるるん、ほわん」でしょうか。
──ああ、そのオノマトペ! 伊勢うどんを頑なに拒否しようとする讃岐うどん屋の息子が、戸惑いながらひと口食べて「そるるん、ほわん」という第一印象を抱き、たちまち魅せられていくくだりには、深く感動しました。伊勢うどんの特徴を極めて的確に表現しつつ、何よりとてもおいしそうで、まさに名文でした。ところで、あの場面でふたりが食べた伊勢うどんは、なぜ「伊勢玉子うどん」だったんでしょうか。
津原:えっ、えーっと、実際に自分が行ったときに食べたメニューだったこともあるし、エスカルゴと対比させるために、うどんと玉子という「当たり前にあって値段も安いけど実はとてもおいしいご馳走」という存在を出したかったという意味もありますね。ひょっとして、伊勢うどんと出合わせる場面のメニューとして不適切でしたか。
──いやいや、そんなことはありません。ネギだけのシンプルな伊勢うどんがメジャーですけど、玉子入りもそれに次ぐ人気メニューです。他からやって来たふたりが食べるメニューとしては最適だと思います。すいません、マニアックな質問で。(ここでエスカルゴ牧場からお取り寄せしたエスカルゴ登場。しばし試食タイム)本物のエスカルゴ、初めて食べましたがめちゃくちゃおいしいですね!
津原:一般的に食べることができるエスカルゴの多くは、じつはまったく別種のカタツムリです。フランスのブルゴーニュ地方で食べられているこの「へリックス・ポマティア」は、よく噛みしめるとうまいところの詰まり方が違うんですよね。ぜひ、このバターソースをパンにつけて召し上がってください。