赤旗のスポーツ報道については、「『敵』や『主砲』といった戦争用語を使わない『しんぶん赤旗』のスポーツ報道が注目されています」とある。この法則にしたがえば「ゴジラ松井、主砲のバットでチーム三連勝」という見出しも戦争用語だからダメ、という訳である。アウトを駄目、セーフをよし、と言い換えた戦時中の敵性言語追放運動を思い出す以上に、私は小松左京の掌編『戦争はなかった』を思い出した。
この作品は1991年のフジテレビ系『世にも奇妙な物語』で映像化されている。林隆三演じる戦中世代の銀行マン紺野が、若い部下の提案してきた「あなたの街に幸福の集中爆撃」と書かれた定期預金の広告コピーに、戦争の記憶が風化していることを嘆くシーンで始まる。
本作は痛烈な戦後風刺だが、と同時に何の意図もない日常にすわ戦争を発見する、戦中世代の杓子定規・滑稽さも描写している。“主砲”は戦争用語だから駄目……。なるほど奇妙な話だが、イチローのバットが爆発したときに赤旗はどう表現するのか調べてみた。普通に「安打」と書いてある。日本語の語感をもっと大切にしてほしい。赤旗はスポーツ報道に向いていない。
●ふるやつねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争』『左翼も右翼もウソばかり』。近著に『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。
※SAPIO2016年10月号