ライフ

織田信長の軍隊と帝国陸軍 対決したらどちらが勝つか?

作家の井沢元彦氏

「歴史に学べ」という言葉がある。現代の世の中をとらえるとき、よく使われる言葉だが、過去の歴史をさらに古い過去と比較し、学ぶこともできる。作家・井沢元彦氏による週刊ポストの連載「逆説の日本史」より、織田信長と帝国陸軍について、どちらが優れているかについての考察を紹介する。

 * * *
 ここで、歴史クイズを出そう。あなたは織田信長の軍隊と三百年後の帝国陸軍とどちらが優れた軍隊だと思いますか?

 答えは言うまでもない。織田信長の軍隊である。

 なぜなら総大将の織田信長は、自分たちより優れた武器を持つ敵とは決して戦わないからだ。自分たちの装備が敵を上回るまで辛抱強く待つのが信長である。だからもし時空を超えて信長軍と帝国陸軍が対決したら、最終的には必ず信長軍が勝つ。

 それに木下藤吉郎つまり後の豊臣秀吉は信長軍では方面軍司令官になれたが、陸軍では絶対に大将(師団長)にはなれない。理由は簡単で藤吉郎は陸大を卒業していないからだ。
 
 陸軍ではどんな優秀な軍人であっても陸大を卒業していない限り大佐(連隊長)どまりだった、それも陸軍士官学校を出ていればの話で、足軽、じゃなかった二等兵(最下級の兵士)からキャリアを始めると、どんなに優秀な兵士でも少佐どまりである。
 
 戦前、大変人気のあった兵隊漫画『のらくろ』も、主人公の「のらくろ二等兵」は当初少佐で終わる予定だった(最終的には一階級下の大尉で除隊)。それが帝国陸軍の実態であった。その世代に戦争の天才がいても師団どころか連隊の指揮すらできないし、作戦参謀になるなど夢の夢である。

『私の中の日本軍』(文藝春秋刊)の著者山本七平は学徒動員で素人学生の身ながら帝国陸軍少尉として任官し戦場に赴いたが、現場の兵士を見てなぜ学生あがりの自分よりも極めて優秀な現場の兵士を指揮官に抜擢しないのかと思ったという。

 しかし、日本軍は、帝国陸軍だけでなく海軍も、それができない仕組みになっていた。若い頃、軍事の専門学校を出たか出ないかという「キャリア」が最後までつきまとったのである。だから木下藤吉郎がいても絶対に出世できない。ちなみに、現代の日本の「霞が関」というところも、そういう仕組みになっていると話に聞く。
 
 私は、大日本帝国の轍を踏まねばいいなと思っている。それが「歴史に学ぶ」ということであろう。

※週刊ポスト2016年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト