ビジネス

歯科技工士 銀歯1個の製作費400円、連日20時間の過酷労働

クラウンやインレーを製作する歯科技工士の労働実態

 歯科治療には欠かせない、クラウン(被せもの)や入れ歯などを製作するのが「歯科技工士」だ。重要な役割を担っているにもかかわらず、低収入、長時間労働を強いられ、その結果、銀歯の精度が低下して虫歯の温床となる等、患者にも多大な影響が及んでいる。

 今回、全国の歯科技工士を取材すると、ダンピングの強要など歯科業界のモラルなき実態が判明した。

「僕ね、昨夜は2時間しか寝ていないんですわ。今週は月曜2時間、火曜、水曜は3時間。今夜はたぶん徹夜。ほんまに限界です」

 兵庫県神戸市で歯科技工所を個人で経営する57歳の男性は、自嘲気味にこう話した。顔色は青白く、丸い背中に疲労感が漂う。40年ローンで購入した自宅1階の8畳分が作業場。2階と3階に妻と4人の子供が暮らすが、顔を見ない日が多い。仮眠は作業机で突っ伏して仮眠をとる。

「気がついたら寝とるという感じやね。大量に仕事があるから、気持ちに余裕がないんですわ。気がついたら死んどるかもしれん(笑)」

 作業机の上には、患者の歯形模型が並んでいた。1日に製作する銀歯は30~40個で、受注から納期まで2日間しかない。だから、連日20時間働き続けてフル操業となる。

 銀歯1個の製作費を聞いてみると──。

「単価ね、恥ずかしいな(笑)。インレーという銀歯の詰めもので400円。だから、とにかく数をこなさなければ食べていけないですよ。1か月の売り上げは40万円ほどですけど、銀歯作りは電気代がもの凄くかかるので、6割は経費です」

 歯科技工士の待遇改善を求めて活動する雨松真希人さん(34)に、銀歯の製造工程を見せてもらった。

 歯科医院では患者の歯型を取り、そこに石膏を流し込んだ模型を作成する。歯型模型を受け取った歯科技工士は、銀歯を被せる歯の模型を削って整え、溶かしたワックス(ろう)を盛りつける。

 それを鋳型材で固めて電気炉で焼くと、ワックス部分が燃えて空洞になる。そこに金銀パラジウム合金を流し込むと、銀歯の原型ができる。洗浄と研磨をして、銀歯が完成する。全てが手作業で行なわれ、熟練した技術と経験が必要な匠の世界だ。

 しかし、これだけ丁寧に作っても1個400円にしかならない。大量に製作しなければ生活は成り立たず、常識を超えた長時間労働が、必然となっていた。

「80人いた技工士専門学校の同級生で、残っているのは1割です。みんな仕事は好きだけど、夜中2時まで働いて技工所に泊まる毎日で、精神も肉体もボロボロになりました。若者が使い捨てにされる状況を放置すれば、日本から歯科技工士がいなくなるかもしれない」(雨松氏)

●文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班

※週刊ポスト2016年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン