地元で数十年、農業を営む60代のベテラン農家も、「こんなのは初めて」と肩を落としていた。
「そもそも今年は、7月まででさえ『十勝史上最悪』と言われるほどの天候不順だった。そこに来て、例年ならこない台風がいくつも……。今年の分の減収は共済で何割か戻ってくるだろうけど、本当にきついのは来年以降だよ。ハハハ……」
乾いた笑いが胸に刺さる。
十勝の農業は「輪作」という栽培方式だ。ひとつの作物を同じ畑で連続して栽培するのではなく、じゃがいも、小麦、てんさい、豆類などを1年ごと、季節ごとに植えていく。なかでも作付面積が大きいのが、春から夏にかけて収穫する秋蒔き小麦だ。ところが、この秋はじゃがいもの収穫や回収ができず、いまだ小麦の種を蒔くことができない。
秋蒔き小麦は、一定期間低温で生育させないと穂が出ない。この時期に種を蒔かないと来年の収穫が見込めなくなってしまう。ことは、じゃがいもという単一の作物だけの問題でもなければ、今年の収穫という一過性の話でもない。
ここに挙げたのはごく一部の話だ。冠水した加工工場や、復旧に時間のかかる橋や道路などのインフラ……。自給率1%の東京の食を支える、自給率1249%の十勝という一大農業王国が、今後数年に渡り苦境に追い込まれる可能性がある。
そのとき、東京はどうするのか。そしていま、何ができるのだろうか。次回ももう少し十勝と北海道の話を書こうと思う。