「1日3回、必ず食後の歯みがきをしましょう」。小学校でそう習い、今も1日3回の歯みがきを欠かさない人は多いはずだ。そんな「常識」に異を唱えたのが、『週刊現代』に掲載された「気をつけろ! 60すぎたら、歯をみがいてはいけない」(2016年9月24日・10月1日号)という特集記事だ。
同記事では、『歯はみがいてはいけない』(講談社刊)の著者で現役歯科医の森昭さんが、「誤った歯みがきの習慣」に警鐘を鳴らした。なかでも衝撃的なのは、「毎食後の歯みがきは、歯と歯ぐきにダメージを与え続け、歯の喪失だけではなく、全身疾患のリスクを高める」との指摘だった。
歯を失う主な原因は「虫歯」と「歯周病」の2つだ。現在、日本人の80%以上は虫歯を持っているとされ、歯周病の有病率は20代で約7割、30~50代で約8割、60代にいたっては約9割に達する。
そして歯周病のもととなる歯周病菌は、口の中の毛細血管を通じて全身に広がり、脳卒中や心筋梗塞の原因となったり、糖尿病や認知症にも関連するといわれている。もはや、歯のケアを怠ると生じる歯周病は、全身の疾患に関係するというわけなのだ。
では、なぜ食後に歯をみがいてはいけないのだろうか。森さんによると──。食事中に糖分を摂取すると口の中が酸性に傾き、歯の成分であるリンやカルシウムが唾液に溶け出して、歯が「軟らかく」なる。この時、歯ブラシでゴシゴシとみがくと、毛先があたって軟らかい歯が削れてしまう。さらにひどい場合は、ブラッシングにより歯の根元が楔(くさび)状にえぐれてしまうというのが、『週刊現代』に書かれた主張だ。
とくに中高年や高齢者は歯や歯ぐきが弱っているので、ブラッシングで歯が傷つき、虫歯や歯周病が悪化して全身疾患にいたるリスクが高いという。
宇田川歯科医院院長の宇田川義朗さんは、「確かに、食後に歯の成分が溶けることはあります」と指摘する。
「口内にひそむ細菌は歯に付着してプラーク(歯垢)となります。プラークに生息するミュータンス菌やラクトバチラス菌などの『虫歯菌』は、食べ物に含まれる糖質を分解して酸を作ります。この酸が歯の成分であるリンやカルシウムを溶かすことを『脱灰』といい、ひどくなると歯に穴が開いてしまう。この脱灰は食事のたびに起こっています」
だからといって、食後に歯みがきをしても、歯が「削れる」リスクは少ないと宇田川さんは主張する。