ライフ

鋏鍛冶に魅せられたフランス人「鋏鍛冶も親方も日本の宝」

植木鋏を製作中のエリック・シュバリエさん

「鋏鍛冶も親方も、親方が作る鋏も日本の宝。後世に残さなければいけない伝統技術です」

 橙色の火の粉が舞う炉。昔ながらの手法で空気を送り込み、1000℃に達する松炭の中から取り出した黄金色に輝く鋼に金づちを振り落とす。親方の作業の動きをイメージしながら、鋏の刃の形を調整していく。

 打ち刃物で有名な大阪・堺市。日本でただ一人の「鋏の伝統工芸士」(国指定)である鋏鍛冶「佐助」5代目・平川康弘氏の元に、フランス人のエリック・シュバリエさん(27)が弟子入りしたのは不思議な巡り合わせだった。

「高校時代に耳にしたJ-POPで日本語の響きに興味を持ち、パリの大学では日本語を専攻したんです。日本で生活したいと思うようになり、卒業前の2012年1月に日本に来ました。その直後、日本の友人からある書類の翻訳を頼まれたのです」

 その書類は、今の親方・平川氏がフランスで開く個展のためのものだった。翻訳の参考にしたいと平川氏の作業場を見学に訪れたエリックさんは、その卓越した技と火の力で生み出される鋏に惚れ込み、同年7月に弟子となった。

「魂が揺さぶられたのは、曽祖父が馬の蹄鉄を作る鍛冶職人だったルーツも関係しているかもしれませんね。親方が作る鋏は美しくて切れ味も鋭く、今も使うたびに感動します」と語る。

 佐助の鋏は、植木鋏や盆栽鋏、花鋏など多くの種類がある。象嵌(ぞうがん)や漆塗りなどで装飾する鋏の場合、完成まで100を超える工程を経るそうだ。一人前になるには10~15年はかかるとされ、修業の道のりは長い。平川氏は、鍛錬に励む愛弟子を優しい目で見守る。「エリックはよく勉強しています。堺の鋏鍛冶の伝統を受け継ぎ、世界中に伝えてもらえたらうれしいですね」

■撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年10月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン