その後、韓国はアジア有数の経済大国になるまでに発展した。しかし、未だ「在日への警戒心は拭えない」と、韓国の大手企業に勤める20代男性が本音を漏らす。
「在日出身者には優秀な人材も多く、韓国人社員を差し置いて重要な役職に登用される者もいます。韓国人はこれが許せない。在日は、私たちにとって“よそ者”であり、自分たちの仕事を奪われるという危機感もある」
だが、それだけでは“ロッテ血祭り”に象徴される近年の在日差別の苛烈さは説明できない。
慰安婦問題を巡る昨年末の日韓合意以降、朴槿恵政権は公式の場での「反日」を封じ、今年1月の国民向け年頭談話や、日本からの独立記念日である8月の「光復節」でも歴史認識問題や慰安婦問題に触れることはなかった。
朴政権が対日関係改善に舵を切らざるを得なかった最大の理由は、1997年のIMFショック以降“最悪”と言われる韓国経済の悪化だ。国内消費は伸び悩み、ウォン高で頼みの輸出も大幅に落ち込んでいる。
朴政権の反日がトーンダウンしたことで、韓国国民は不満の捌け口を失った。そこで彼らが矛先を向けたひとつが同胞の在日韓国人である。
韓国のネット掲示板には、「日本の嫌韓感情の悪化は在日が原因。ヤクザ、パチンコ、売春産業の多くに在日が携わっている」「在日どもは韓国籍を捨てないことで吸える蜜が多いので日本に帰化しない」などと、根拠のない理由で攻撃している。これまでの日本批判に代わって在日を厳しく糾弾する書き込みが目立ち始めた。韓国社会の鬱屈した暗い情念が噴出した形だ。
※SAPIO2016年11月号