そもそもロッキード事件は米国が震源地。キッシンジャー(元国務長官)を中心に国務省、CIA、FBIといった米国政府や機関が仕掛けた謀略なんです。その当時、田中は米国からデンジャラス・ジャップと呼ばれて危険視されていた。
実際、田中が行なっていた外交は、対米追随外交ではなく、自主外交でした。中国との国交もそうですし、はてはソ連にも乗り込んで、チュメニ油田を手に入れようとしたほど。アラブとも関係を築き、つまりは米メジャーを敵に回すようなこともした。このようにして田中角栄は、アメリカから目をつけられていたわけです。
ロッキード事件当時、日本政府も田中を目の敵にしていた。三木内閣でしたから。当時の稲葉修法務大臣は田中の逮捕を許可。捜査は徹底的にやるという姿勢まで表明していた。その結果、ロッキード事件は「国策捜査」になった。つまり、ロッキード事件の核心というのは、日米合作の冤罪なのです。
安倍首相は今、ロシアとの外交を重視し、プーチンを山口に連れてくると言っている。2島が返ってくるかもしれないと。だが田中は、4島を返すということをテーブルに突き付けて、当時のブレジネフ書記長を追い詰め、「ダー、ダー(そうだそうだ)」と言わせた、そういうこともやったわけだ。
安倍総理にそれだけの交渉力があるかといえば、彼は世界を回って多くの首脳には会っているが、金を配ることだけに頼っている。それは喜ばれるだろうが、これが本当のわが国の自主外交と言えるだろうか。
●いしい・はじめ/1934年生まれ。1969年初当選。国土庁長官、自治大臣などを歴任。民主党副代表も務めた。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号