この「反差別界隈」は2014年の都知事選では宇都宮健児氏を積極的に応援していたが、野党共闘に深く賛同しているため、今夏は鳥越俊太郎氏の支持に回った。宇都宮氏は結局出馬を断念するが、事件は終盤戦に起きた。選挙期間中、鳥越氏の過去の女性スキャンダルが報じられたのを受け、宇都宮氏は鳥越氏の応援要請を拒否。すると、「反差別界隈」が一斉に宇都宮批判を開始したのだ。
ヒラリー・クリントン氏に民主党候補者の座を譲ったバーニー・サンダース氏を引き合いに出し「なーにが日本のサンダースだ」といった声もあった。
これも「宇都宮氏は鳥越氏を応援するはずだ」「サンダースがヒラリーを応援したのと同様にふるまって欲しい」という「願望」を裏切られたがため、敵認定し、叩く結果となったのだ。
声優・平野綾は長らく清純派の声優として売っていたが、テレビ番組で交際相手がいたことを匂わす発言をして大バッシングを食らう。以後、かつてファンだったであろう者からツイッターには「死ね」や「うんこぶりぶり」「お前の人気もあと1年だよ クソビッチ10円はげ」などの罵詈雑言が寄せられ、無修正の男性器写真を送られるなど嫌がらせも受けた。
平野は結局ツイッターをやめた。ベッキーが不倫したら社会全体で彼女を許さぬポーズを見せ、スポンサー・局にクレームを入れる。いずれも「清純派」であって欲しいとの願望を裏切られたと考えた人々が攻撃側に回った例だ。
バカげた願望から発生した怒りだが、いずれも抗議を受けた側が屈服する結果となっており、安易に支持者など作らない方がいい時代になったともいえる。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2016年10月28日号