地方参政権のない在日韓国人は、例えば社会問題化したヘイトクライムの改善を訴えようとも、政治に訴える手段がない。そこで、次のような主張が生まれる。

 在日韓国人が主体的に韓国政府に権利を訴えないと、日本での権利は確保できない。だが、大阪市立大学大学院経済学研究科教授で、在日三世の朴一(パクイル)氏は、そうした考えに異を唱える。

「自らの権利獲得のために、在外投票で韓国に訴え、日本側に圧力をかけさせるのは、回り道に過ぎるし、内政干渉の誹りを受けかねない。それに地方参政権こそなくとも、私たちは、市民生活に意見を反映させるプロセスを既に築いている。地域社会との信頼関係だったり、市会議員とのコネクションだったり。むしろ在外投票は、韓国に対して我々の意見を表明する場として活用すべきなんです」

 世代が進んだ在日韓国人は、本国の政治にリアリティを持てないのでは?

「決して韓国政治に通じている必要はない。たとえば日本大使館前の慰安婦像に関して、我々の中にも様々な意見がある。日韓合意を果たしたのだから撤去すべきという声も当然あります。本国の強硬な外交姿勢は、嫌韓ブームとして我々の生活に直接悪影響を及ぼすわけですから。韓国の政治家たちが過度なナショナリズムに陥らないよう、在日韓国人が果たせる役割があるはずです」

 次回投票は2017年末の韓国大統領選である。在外韓国人の声は、海峡を越えて本国に届くか。

※SAPIO2016年11月号

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