個性を伸ばそうという風潮が強くなった現代にあって、なぜか、昔ながらの軍隊式訓練を社員教育に取り入れる企業が増えている。古くて泥臭いスパルタ教育に目新しさを感じるのはなぜか。そのメソッドに迫る。
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富士山の玄関口である静岡県富士宮市。大自然の山中に絶叫がこだまする。
「有難うございました!」「入ります!」「どうぞ!」
ここは、社員教育研究所が運営する管理者養成学校。まもなく900回を迎える「地獄の訓練」と呼ばれる、12泊13日の「管理者養成基礎コース」の舞台である。1979年に千葉県で開校以来、卒業者はのべ24万人。「汗と涙と一生懸命」を標語に、徹底したスパルタ教育で、依頼してきた企業の社員を管理者に育てる。同校の元橋康雄校長が言う。
「最近の若手・中堅社員は野心がなく、責任を避け、嫌われたくないと部下を叱れず、スマホばかりいじってコミュニケーション能力がない。そんな人間を劇的に変えるには、地獄の訓練が最適です。『あそこにだけは行きたくない』『じきに消える』と陰口ばかりの“日本一嫌われている学校”ですが(苦笑)、厳しさを嫌がる世の中だからこそ、本校の存在価値があるのです」
同校の教育方針はどういったものなのか。元橋校長が続ける。
「社員を短期間で戦力にするため、軍隊の新兵訓練を参考にしました。日教組が『子供の創造性を妨げる』と号令を禁止したので今の小中学校は起立・礼をしませんが、本校では講師の号令に全参加者が従います」
一見、時代錯誤な教育方針だが、ニーズは高まる一方だ。参加企業は一部上場から中小まで幅広く、社員が主任に昇進すると必ず参加させる大手企業もある。