鈴木園長自身は中学・高校と陸上部に所属した。大学で体育教師の資格を取ったが、教師にはならず清掃会社を起業したビジネスマンの顔を持つ。園長が語る。
「子供を叱る近所の怖いオヤジがいなくなった今、親を鍛えないといけない時代です。泣いて登園を拒む子に対し、心を鬼にして園に置き去りにできる人は“厳しくて優しい親”。迎えに来たときには『今日もよく頑張ったね』と褒めてあげる。
これに対して“甘くてあたる親”は無理はせず連れ帰る道すがら『泣かないって言ったくせに』と子供にあたってしまう。ゆとり世代の親自身が、自分に甘いのです。幼児期に子供の意思なんてない。親が覚悟を決めれば子供は諦めてやります」
取材中、サッカークラブに通う小学生が父親と園長室に現れた。悪ふざけでガラス窓を割った謝罪と弁償のため、お年玉から用立てた金を手にしている。鈴木園長はこう説いた。
「父さんが働いてくるからお年玉をもらえる。ちゃんとここで父さんに謝れ、ばかやろう!」
少年は正座し父に詫びた。
「お前が働くようになったら、絶対に親に返せよ。次はただじゃおかねえぞ」
実は種がある。金は後でこっそり父親に返すのだ。父親と演じた芝居である。
「本人がお金を払う痛みがないとわからないから。もう2度とやりませんよ」
“怖いオヤジ”が幼児園の最大のコンテンツだ。
【PROFILE】広野真嗣(ひろの・しんじ)/1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。神戸新聞記者を経て、猪瀬直樹事務所スタッフ。2015年10月より、フリーランスのジャーナリストとして独立。
※SAPIO2016年11月号