筑波大学助教・メディアアーティストの落合陽一氏
陽一:アメリカの格差拡大は、移民の流入が増えて、多民族国家化が急激に進んでいることも大きいと思う。
以前の「強かったアメリカ」は、多民族ではあったけれども上部構造が基本的には白人社会だった。もちろん功罪はあるけども、その上で「ケネディ」とか「レーガン」といった、国を象徴するようなリーダーがいたよね。それが、多くの移民が入って国の“オーラ”が変わったように見える。
信彦:オバマは多くの移民を入れて、彼らに多額の税金をバラ撒いた。それによって中産階級が没落した。オバマの罪は大きい。
陽一:『そして、アメリカは消える』では50~60年かけてアメリカが劣化してきたと書かれているけれど、僕は、アメリカに限らず世界の劣化は「インターネットの登場」の影響が大きいと思う。
例えば日本でも、1980年代や1990年代はもっとアメリカ大統領選のニュースや難民問題などが報じられて、多くの人々がそれについて考えていたはずだよね。でも今は、そんなことはない。大統領選について報じられるとしても、トランプなら「女性問題」だし、ヒラリーなら「メール問題」。“スキャンダルトーク”ばかりになっている。
信彦:子供の口ゲンカのような大統領候補者討論会も、面白おかしく取り上げられるばかりだったな。それをワイドショーのように楽しんでいるんだから、国民のレベルも劣化してしまった。
テレビは芸能人の不倫とか、誰と誰が付き合っているとか、そんなことばかり垂れ流している。メディアが国民を劣化させているとも言える。
そもそも、新聞社やテレビ局の社長や政治部長が、安倍と頻繁に会食していることからしておかしいだろう。アメリカなら絶対に許されない。日本の新聞社やテレビ局はそうやって政権に飼い馴らされることを喜んでいる。そんなメディアに、政治を監視することができるわけがないんだ。
陽一:僕は、インターネットの登場であらゆるものがポピュリズムに支配されるようになったと思う。大衆からのフィードバックがすぐ返ってくるようになって、目の前の数字や人気ばかりを追うようになった。
極端に言えば、みんなiPhoneの新製品やグーグルの新サービスのほうに興味を持って行かれて、政治は完全に対岸の火事。ネットで流れているニュースを見ると、そんなのばっかり。iPhoneは触れるけど政治は触れないから。それがポピュリズムの結果じゃないかな。
お父さんの本で書かれているみたいに、「アメリカの未来はどうなるのか」「世界はどうなっていくのか」ということを本気で考えるような報道も風潮もなくなった。でも僕は、それは劣化じゃなくて人類の「適応」と言えると思うんだよね。
※SAPIO2016年12月号