実際に、通信販売器具使用による転倒や関節痛などは国民生活センターに寄せられる代表的なトラブル事例だが、その中には高齢者層の相談例が多い。悪質とは言えないまでも、こんな声も聞かれた。
「運動しなければと思い立ってシニア割引をしているスポーツクラブに入会したのに、器具はほとんど若者向けのハードな設定ばかり。
スタッフも若い人ばかりだからか、“健康を保つための運動メニューはないか”と訊いても、困った顔で“ルームランナーをゆっくり歩いたらどうでしょうか”と言うだけでした。それなら近所の散歩のほうが楽しい。結局、2回だけ通ったきり行かなくなり、数万円の入会金は無駄になってしまった」(72歳男性)
そうした「高齢者運動ビジネス」を率先して進めたのが、先頭に立って運動を啓蒙する厚労省だったこともブラックジョークだ。介護保険問題に詳しいジャーナリストの武冨薫氏が語る。
「2005年の介護保険法改正の際、介護の必要がない高齢者にも“介護予防”として筋力トレーニングをさせる制度ができた。厚労省の天下り団体が莫大な介護保険の予算・補助金を還流させるための政策です。この“筋トレ法”は、文科省の所管になるスポーツ行政に厚労省が積極的に参入する契機にもなった」
結果的に“筋トレ法”は介護保険財政の悪化によって2017年までに市町村の事業に移されることとなったが、老人スポーツが「カネのなる木」であることを民間に知らしめる契機となった。
そして現在もエビデンスがはっきりしない根拠まで駆使して「高齢者は運動しよう」と声高に叫び続けているのだから手に負えない。
生涯スポーツが人生に活力を与えてくれるなら、自分の体力や健康に合わせて参加することには大きな意味があるだろう。だが、それで健康を約束されたと思うのは早合点。しかもその様子を見て笑いが止まらない人々も背後に大勢いるのである。
※週刊ポスト2016年11月18日号