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三島由紀夫「処女作」幻の生原稿を独占入手

◆三島は所在を知っていた

 さて、そろそろ私が戦前に書かれた原稿の在りかにたどりついた経緯を述べよう。

 今年の初夏、熊本で出されていた文芸誌『日本談義』の昭和四二年七月号に、「「花ざかりの森」の原稿は今も(熊本市)植木町の蓮田未亡人の手許にある筈である」というくだりを見つけたのだ。これを書いた人物は、蓮田とは中学と師範学校の学友だった。時あたかも三島はノーベル賞の最有力候補にあがっていたから、受賞したら直筆原稿の価値はいやがうえにもあがる。そんな思いがこんな憶測を書かせたのだろうか。いや、しかと知っていながら断定を避けたのだろう。

 私は可能性は低いと思いながらこれを確かめようと今夏、蓮田善明の長男・晶一に連絡をとった。蓮田と三島との関係について調べていた私は、かねてやり取りをしていたのだ。久々連絡をとったのだが、なんと晶一は数日前に心不全で亡くなっていた。そして代わりに善明の次男・太二が応対してくれた。彼は通称“赤ちゃんポスト(*)”の主宰者である。

【*親が育てられない乳幼児を匿名で受け入れる窓口。熊本市にある慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」という名前で設置している】

 太二によると、善明が出征時に東京から熊本に送った荷物は、蔵書、受けとったあまたの書簡、それらすべてをかなり大きな容器に入れて梱包したものだった。その中に夫人が夫から、日本が敗戦したら焼却するよう言われた文書があった。それは善明が士官として一回目に出征したときの軍の機密書類だったようだ。戦後夫人はそれを竈で長い時間をかけて燃やしていたという。おそらくそのときに「花ざかりの森」の原稿を見つけたのだろう。

 三島の文名が九州熊本に届いたのは『潮騒』や『金閣寺』の書かれた昭和三〇年前後以降だったろう。その三島は今からちょうど半世紀前の昭和四一年、『奔馬』の取材で熊本を訪れていた。そのとき三島に会った夫人は原稿のことを話さなかったのだろうか。いや話したら三島が「そのまま持っていてかまいません」と言ったのだろうか。太二はこたえてくれた。

「母は原稿がこちらにあることは知っていました。三島さんが熊本に来られたとき、もし原稿返還のお話があればお返ししていたと思います。原稿が私どものところにあることは三島さんも当然ご存じのはずで、そのときに返還のことはお話しにならなかったと推察します。兄が亡くなるまえに、今後原稿をどうすべきか話し合いました。話し合いましたが結論が出ないまま亡くなりました」

 三島由紀夫の「花ざかりの森」の直筆原稿が3四半世紀、七五年ものあいだ、蓮田善明の親族によって所蔵されていた。それには、両者のあいだに以上のような縁があったのである。(敬称略)

※週刊ポスト2016年11月25日号

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