「おれはあいつのことを、勘違いしていたよ。ただの親ばか、親の欲目だったな」とため息交じりに言ったのは、死の数日前。「あんな息子を残していくのかと思うと…、申し訳ない」と、夫は何度も言って涙を流しました。
と同時に、最後の願いを込めて、息子と「男同士の約束」をしたようです。夫の葬儀が終わると息子は、すぐにガソリンスタンドのバイトを見つけ、働き出しました。
しかし10日ほどで辞めてしまい、その後は何をしてもダメ。塗装業の助手や、倉庫の整理など、働き出しても3日。朝行って昼には帰ってきてしまったこともあります。
◆「あなたほどの苦労はない」と言ったママ友
「仕事が覚えられないから、ばかにされる」
とうとう息子は働くことを辞め、自室のベッドから出てこなくなりました。子供の頃から片づけが苦手でしたが、そんな生やさしいものではありません。床いっぱいにコンビニの弁当の食べかすや、袋菓子、雑誌などが散乱して、ドアの前に立っただけで異臭がする。 ある日の昼さがり、私の怒りが爆発しました。
「いつまでそうしているつもりなのっ」
大きな声で息子を責め立てていると、「ピンホ~ン」と間の抜けたチャイムの音。慌てて玄関のドアを開けると、息子の“ママ友”が立っていました。私は、自分の罵声が彼女に聞こえたと思い、慌てました。
「あなたは苦労なんてないんでしょうね」と口走ると、彼女は薄笑いを浮かべて、「そうねぇ。確かにあなたほどの苦労はないわね」と言ってのけたのです。夫が亡くなってまだ数か月しかたっていないのに、「あなたほどの苦労はない」とは、よくも言える。“ママ友”は用事らしい用事はなく、ただ私の泣き顔を見に来ただけでした。
(つづく)
※女性セブン2016年12月1日号