すみれは、「剛速球の言葉を投げられても微笑みながら受け止めて、そっとスローボールを投げ返す」、ほのぼのとしたタイプ。どんなキャラクターも、すみれとの会話ではスローな世界観に引き込まれて、いつの間にか理解者になっていきます。そんな心温まるやり取りが視聴者の静かな感動を呼び、視聴率が再浮上しているのでしょう。
「朝ドラ最遅」とも言えるスローな展開は、子ども服を一針一針縫うように、目の前のことにコツコツと挑んでいく、すみれたちそのもの。彼女たちが一歩一歩地道に前進する姿を描くためにはスローな展開が不可欠であり、それを存分に描きたいから「裕福な状況から全てを失う」第1~2週を最速で駆け抜けたのでしょう。
スローな展開は、「ヒロインと主演女優を自分の娘のように見つめ、その成長を応援する」という朝ドラ本来の楽しみ方が戻ってきたことの証でもあります。すみれと芳根さんにとって、本当に応援してもらいたいのは、「最速で駆け抜けた」女学生時代や結婚・出産前後ではなく、「最遅で描かれている」仲間と店を開いた現在とこれから。
第8週の見どころは、帰ってきた紀夫との生活と、新たな店のオープン。ここでもスローな展開で、私たちにじわじわとした優しさを感じさせてくれるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。