「写真撮影代が12万円、レッスン代はプランごとに別れていて、30万から100万円を超えるものでした。今思えば、そこで気が付けばよかったんですが、夢の為と思い、カードローンで30万円を支払ってしまったんです」
しかし、30万円のレッスン代は「ウォーキング講座」と銘打った、ほとんど雑談とお遊びに終始したおよそ5回の集まりに消えた。事務所担当者は、リナの懐事情に同情しつつも、レッスン代のさらなる要求とカネになる”アルバイト”の存在を仄めかした。
「夢の為に頑張る子は他にも大勢いる。ここで頑張れるか頑張れないかが勝負。みんなアルバイトをして、レッスン代を捻出している(担当者)」
すでに30万円を払ってしまっている以上”後には引けない”と感じる女性の心理をくすぐるように、事務所担当者が紹介してくれたのは「デートクラブ」での仕事であった。異性とのデートをセッティングするデートクラブとは、都道府県への届出が必要な風俗業のひとつだ。さすがのリナもここまでと思い、事務所に所属する姉御肌の先輩モデル・Mに相談をした。ところが…
「事務所から厳しく言われていたのは、所属する別のモデルやタレントと連絡をとってはいけない、ということでした。Mはすぐに私のことを担当者に報告し、契約違反だとして芸能活動の禁止を命じられました。Mはバイトをするべきと強く勧めてきました。私が断ると激怒したんです」
芸能活動の自粛を求められたリナの元に、その後事務所側から一切の連絡はなくなったが、同時に、自身と同じ境遇に置かれている女性たちの存在に気がついたのは、またしてもツイッターのやり取りを通じてのことであった。
「同じ事務所にスカウトされた、オーディションを受けたというツイッターユーザーとやり取りをしているうちに、いろんなことがわかってきました。Mは、事務所に新しく所属した女性の中から、デートクラブでのバイトをしそうな女の子を選んで声をかけていた…。同時期にオーディションを受けた女の子のうち数人は、すでにデートクラブで働きながらレッスン代を稼いでいたんです」
Mのような存在や、悪質な芸能事務所について詳しい現役の雑誌編集者が、現状を次のように説明する。
「実態がないのに”芸能事務所”を名乗るような詐欺事務所もかつてはありました。しかし、どんな悪徳事務所も、最近では何かあるとすぐネットで報告されるために、表だって悪いことはしません。そこで、一人か二人、実際に活動しているモデル女性を所属させ、看板というか”エサ”にする。事務所がまともだと信じた無知な女の子を呼び込み、あの手この手でカネを取る。
また、Mのような存在は、得意先や関係者の接待などでも重宝します。特別な”おもてなし”に新人モデルを利用するため動いてくれたり、時には先方の弱みを掴んで帰ってくる。知り合いの編集長は、反社会系事務所のモデルの”おもてなし”に応じてしまったため、今もいいように使われている」
大手芸能事務所関係者も、悪質極まりない事務所について嘆息しつつ、若い女性たちに警鐘を鳴らす。
「これらの事務所の実態は、芸能事務所ではありません。女性たちから巻き上げたカネで運営が回っているだけ。”芸能活動”と称して、未成年女性を接待の伴う飲食店で働かせたり、その先をやらせることもある。女の子たちにいいたいのは、きちんとした事務所はそんな簡単に女性に声をかけませんし、所属する段階で高額な登録料、写真撮影料を取ることなんてないということ。スカウトをされた際には、その会社がまともかどうかネットで調べ、親や兄弟、先輩や友人にしっかり相談してください」
アイドルやモデルといった存在が、SNSなどを通じて非常に身近に感じられるかのようになった現代。悪質スカウトによる若い被害者たちは、ネット上などでは時に「自業自得」「騙される方がバカ」と誹謗や中傷を受けざる得ない事態にもなっている。だが、違法ではないが悪質な手法をとる相手は、巧妙に騙してくるのだ。騙す側ではなく、騙される側が悪いという認識は、歪んでいるだろう。しかしこの悲しく、間違った雰囲気が、一朝一夕で変化するようなものではない以上、若い女性たち、そしてその周囲の大人たちに、今起きている事を知ってもらう他に、被害を防ぐ方法はなさそうだ。