重度ではない糖尿病患者の糖質制限では、糖質の摂取量を総エネルギーのうち30%程度にまで抑えるが、古川氏のケトン食療法はそれを限りなくゼロに近づける。臨床研究では、1日の糖質摂取量を20グラム以下とする「糖質95%カット」を実践した患者もいる。
具体的な量を示すとそのストイックさがわかる。ご飯一膳(160グラム)で約60グラムの糖質摂取量なので、3分の1膳以下。それ以上の糖質は摂れない。
では、ケトン食療法でどのような改善例があったのか見ていこう。60歳のA子さんは末期がんを根治したケースだ。
2012年4月、直腸がんの切除手術を受けたA子さんは術後ステージIII、再発可能性は20%と診断され、2014年12月に多発性肺転移と肝転移が発覚した。
その後、古川氏の研究に参加し、抗がん剤とケトン食療法を始めたところ、3か月後に肺に転移したがん細胞が縮小した。手術が可能なサイズまで小さくなったため、2015年4月に左肺の部分切除手術を行なった。古川氏が言う。
「手術後、これまでの抗がん剤治療は行なわず、ケトン食療法のみを継続したところ、肝臓に転移していた腫瘍も小さくなりました。同年9月にその腫瘍の切除手術を行ない完治に至りました。A子さんのケースはがん細胞の増殖を抑えただけでなく、多発転移まで防いだ。栄養源を失ったがん細胞は移動もできなくなるようです」
ケトン食療法が、がん治療に効果がある研究事例は海外でも報告されている。銀座東京クリニック院長の福田一典氏が解説する。
「最初にエネルギー源をケトン体とする糖質制限食ががん治療に良いと言われ始めたのは1995年頃です。アメリカで脳腫瘍を患った女児2人に8週間にわたって糖質制限食を実施したところ、7日後からがん細胞によるブドウ糖の取り込みが20%低下。女児の1人に腫瘍の縮小など著しい改善と長期間の延命効果が認められたのです。
他にも、アメリカでは根治不能とされた進行がん患者10人を対象とした臨床研究で、26~28日間にわたって糖質制限食を実施したところ、全体の半数の5人にがん細胞の縮小などの効果が確認されたケースが報告されています」
古川氏の臨床研究で用いられているケトン食療法は、主食の炭水化物の大幅カットに加えて、もう一つ特徴がある。それはタンパク質とがんの進行・炎症を抑えるEPA(エイコサペンタエン酸)の摂取を強化している点だ。
それらは食材と調理法によって摂取量を厳密に管理されている。
※週刊ポスト2016年12月2日号