◆元夫の変貌
翌朝、スペインから南仏ペルピニャンに車で向かった。そこは、私が長年住んだ町で、アントニオが、エステラとの離婚後、暮らしている。あのきつい文面を受け取りはしたが、その後、何度かメールのやり取りを繰り返し、ようやく取材に辿り着いた。
灰色トレーナー姿のアントニオが、マンションの戸を開けた。私が前年にテレビで目にした本人とは、まるで整形手術でもしたかのように、体格から顔の輪郭まで異なり、?然とした。この2年弱で体重が21㎏も減ったという。
「昨年、私には、多くの悲劇が訪れました。エステラとの離婚、パブの閉鎖、それにアンドレアの死。最悪な出来事の連続でしたね。こんなに苦しい思いをしたのは人生で初めてだった。娘が死んでから、不眠症の日々が続き、死にたくなるほど辛かった」
紅茶を一口すすり、彼は続ける。
「あの出来事(娘の死)のことを、できるだけ考えないようにしているんです。でも、それは事実に変わりないんですよね。その痛みとともに私は生きていかなければならないんです」
当時、経済危機の影響をじわじわと受けていたパブで、経営者として働いていたアントニオは、家計を支えるため、朝は7時に出勤し、夜は12時に帰宅するといった生活を繰り返した。
唯一、祝日や有給休暇が取れた際には、思う存分、娘に尽くした。
「娘は、私が早く家に帰ってくる時の階段の音が分かり、いつも興奮していました。背中を向けている彼女は、私に背後から『ワー』と脅かされるのが大好きだった。その瞬間に大笑いする彼女の声が、今でも耳から離れなくて」