2016年を振り返るうえで忘れられない事件の一つが、福岡市・博多で起きた道路陥没事故だ。繁華街の道路が突然崩れ去るというニュースは日本中に衝撃を与えたが、責任はどこが負うべきなのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
コンビニエンスストアを経営しています。博多で起きた陥没事故には驚きました。コンビニの前の道路がなくなってしまったんですから。あのコンビニも営業停止で大変だったと思います。補償の問題などを考えると他人事ではありません。このような陥没事故の責任は、どこが負うべきだと思いますか。
【回答】
博多の道路陥没では、市とJVが賠償すると報道されていますが、道路陥没の責任を問われるのは、その原因を作った者と道路管理者です。前者は故意、または過失がある行為で道路の陥没を発生させた者が不法行為責任を負います。後者の道路管理者は、私道でない限り、国や自治体で、その設置管理している道路に瑕疵(かし)があった場合に、国家賠償法に基づく賠償責任を負います。多くはこの道路管理者の責任が問題になります。
道路の瑕疵とは、通常有すべき安全性を欠いていることですが、瑕疵があったといえるかどうかは、事故の時点で道路の構造、用法、場所的環境、及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべきであるとされています。こうした点から道路陥没発生が予見できたこと(予見可能性)と、陥没という結果を回避できたこと(回避可能性)があったといえることが必要です。
道路陥没は地形、地質、雨水や地下水の水位や流向、道路築造の方法、地中の設備、地下工事の有無等さまざまな要因が複雑に重なり合って起きるので、予知は簡単ではありませんが、例えば、付近に陥没を起こしやすい地形・地層があることがわかっていたり、近隣で陥没があったなどの事情があれば、予見可能性は認められるように思います。
そして、予見できたとすれば道路の場合、陥没原因を除去する工事や陥没発生を防ぐ対策、あるいは陥没しても被害を拡大させないことは不可能ではなく、結果的に回避可能性があるといえます。道路管理者は、しかるべき対策を講じておくべきで、これを欠けば瑕疵は否定できないでしょう。また、道路の設置、他にも管理瑕疵によって陥没が起きた場合、陥没事故により、通常発生する損害は賠償されることになります。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号