コラム

震災後の50円の円安時代終了 「貿易黒字相場」に回帰

貿易黒字によりドル/円相場は一変か

 米トランプ大統領の誕生により先読みが難しい世界情勢のなか、2017年のドル/円相場はどう動くのか? バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が解説する。

 * * *
 2016年度上半期の貿易収支は2兆4千億円余りの黒字となり、東日本大震災の影響が本格的に表れる前の水準まで回復しました。震災後の約50円もの円安になった時代が“終わった”ということを意味していると見ています。

◆ドル/円が50円もの円安になった背景

 2011年以降の約50円の円安が終わった、と考える背景にはいくつか理由があります。まずドル/円の構造からお話しいたします。ドル/円は実需の取引が大きな影響を受ける相場です。日本の実需筋、つまり輸出企業と輸入企業がマーケットに与える影響力については、米系ファンドも一目置いていました。

 こんなエピソードがあります。ニューヨークにいた頃、結構有名な米系ファンドのトップと食事をする機会がありました。彼は「ドル/円が上がる」と確信し、ドル/円のマーケットの厚い(取引量が多い)東京市場で、買いポジションを作ろうとしたそうです。その額なんと10億ドル、マーケットの言い方をすれば1000本です。

 彼も事前にドル/円には日本の輸出企業のオファー(売りオーダー)が相当あると聞いていたそうですが、ドル/円を買っても買っても、相場はビクともせず、結局1000本を買い終わっても、1銭たりとも上がらなかったそうです。百戦錬磨の彼も、さすがにこれにはたまげたと懐かしそうに話していました。

 そんな実需勢の影響が大きいドル/円相場は、2011年を境に一変します。東日本大震災の影響もあり、以降LNG(液化天然ガス)を大量に輸入するようになったことで、日本の貿易収支は赤字となり、「輸入の方が輸出より多くなる」言い換えれば、「輸入代金のドル建での支払い>輸出代金のドル建での受取り」という構造になりました。

 東京市場ではドル/円相場で恒常的にドル買いが出やすい体質に変化したため、2011年以降は5~10円程度の上昇⇒数か月のレンジ相場⇒また上昇、という押し目の浅い上昇サイクルを2015年までに繰り返しました。しかし2016年にはズルッと円高に落ちる局面が多くなります。

◆貿易黒字によりドル/円相場は一変

 2016年上半期は貿易収支が黒字に転換したことにより、「ドル買い」よりも「ドル売り」の方が恒常的に出るような仕組みになってしまったため、ドル/円を下支えする要因がなくなり、2016年はドスンと下落する現象が起きるようになりました。戦後1965年から2010年まで続いた「貿易黒字相場」に戻ったということです。

 貿易黒字時代のドル/円相場を見ると、ジリジリと押し上げる局面がありながらも、ある時期を境にドスンと落ちるような特徴があります。

 ただし、補足しておかなければならないのは、従来の貿易黒字は製品輸出が多かったことによりますが、今般の黒字化は原油安が主たる原因とされています。2014年には1バレル=100ドル以上で推移していたWTIの原油価格が2016年には一時30ドルを割るほどまで下落したため、LNGなどのエネルギー輸入に必要なドル代金も減ったということです。

 日本の貿易収支は外部環境の変化に敏感に影響を受けやすい体質となり、今後一本調子に黒字化が進むかどうかは、現状でいえば原油価格次第になります。

マネーポスト2017年新春号

関連キーワード

トピックス

那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場された愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
愛子さま、3年連続で親子水入らずの夏休み 那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場 「祈りの旅」の合間に束の間の休息 
女性セブン
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人のインスタグラムより)
《お灸をすえて“再構築”を選んだ安田美沙子》デザイナー夫“2度の不倫”から5年経った現在「結婚12年目の夫婦の時間」
NEWSポストセブン
来場所の成績に注目が集まる若隆景(時事通信フォト)
「大関ゼロ危機」問題が深刻すぎて関脇・若隆景は「来場所10勝でも昇進」か 中継解説の琴風氏が「僕は31勝で昇進しています」と後押しする背景に“令和の番付崩壊”が
NEWSポストセブン
次期総裁候補の(左から)岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏(時事通信フォト)
《政界大再編》自民党新総裁・有力候補は岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏 高市氏なら参政党と国民民主党との「反財務省連合」の可能性 側近が語る“高市政権”構想
週刊ポスト
人気中華料理店『生香園』の本館が閉店することがわかった
《創業54年中華料理店「生香園」本館が8月末で閉店》『料理の鉄人』周富輝氏が「俺はいい加減な人間じゃない」明かした営業終了の“意外な理由”【食品偽装疑惑から1年】
NEWSポストセブン
お気に入りの服を“鬼リピ”中の佳子さま(共同通信)
《佳子さまが“鬼リピ”されているファッション》御殿場でまた“水玉ワンピース”をご着用…「まさに等身大」と専門家が愛用ブランドを絶賛する理由
NEWSポストセブン
レッドカーペットに仲よく手をつないで登場した大谷翔平と真美子夫人(写真/Getty Images)
《5試合連続HRは日本人初の快挙》大谷翔平“手つなぎオールスター”から絶好調 写真撮影ではかわいさ全開、リンクコーデお披露目ではさりげない優しさも 
女性セブン
選挙中からいわくつきの投資会社との接点が取り沙汰されていた佐々木りえ氏
《維新・大阪トップ当選の佐々木りえ氏に浮上した疑惑》「危うい投資会社」への関わりを示す複数のファクト 本人は直撃電話に「失礼です」、維新は「疑念を招いたことは残念」と回答
週刊ポスト
筑波大学で学生生活を送る悠仁さま(時事通信フォト)
【悠仁さま通学の筑波大学で異変】トイレ大改修計画の真相 発注規模は「3500万円未満」…大学は「在籍とは関係ない」と回答
NEWSポストセブン
2025年7月場所
名古屋場所「溜席の着物美人」がピンクワンピースで登場 「暑いですから…」「新会場はクーラーがよく効いている」 千秋楽は「ブルーの着物で観戦予定」と明かす
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
【衝撃の証拠写真】「DVを受けて体じゅうにアザ」「首に赤い締め跡」岡崎彩咲陽さんが白井秀征被告から受けていた“執拗な暴力”、「警察に殺されたも同然」と署名活動も《川崎・ストーカー殺人事件》
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 自民落選議員が参政党「日本人ファースト」に異議あり!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 自民落選議員が参政党「日本人ファースト」に異議あり!ほか
NEWSポストセブン