あふれる思いを陛下は、全国各地に足を運び、国民と直に接することで実践してきた。その1つが被災者と寄り添うことだ。陛下は昨年8月の「お言葉」のなかで、被災地などをたびたび訪問されたことに触れてこう述べた。
「即位以来、私は国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました」
2011年3月11日の東日本大震災の翌日にはお悔やみと見舞いの気持ちを表し、発生5日後には「被災者のこれからの苦難の日々を、私たち皆が、さまざまな形で少しでも多く分かち合っていくことが大切」とのビデオメッセージを送り、その後、被災地に何度も足を運んで被災者を勇気づけた。
岩手県大槌町で経営していた「浪板観光ホテル」が壊滅的な被害を受け、津波にさらわれた兄がいまだ行方不明である千代川茂さんもその1人だ。
20年前の1997年、岩手県大槌町にある同ホテルに宿泊した天皇皇后両陛下は、海岸に咲く美しいハマギクに目を止めた。その縁もあり、両陛下の帰京後、千代川さんの兄がハマギクの種を皇居に送っていた。震災でホテルが倒壊した後、千代川さんはあるテレビの映像に目を奪われた。
「皇后さまの誕生日に公開された映像に御所のハマギクが映ったんです。兄の送ったものだと確信しました。調べてみるとハマギクの花言葉は“逆境に立ち向かう”でした。その言葉に励まされて、ホテルの再建にこぎつけました」
昨年9月、両陛下は大槌町を再訪した。千代川さんは、陛下に「頑張りましたね」と声をかけられ、あふれる涙を抑えられなかった。そんな千代川さんは、有識者会議の内容に不満を漏らした。
「6年経って東日本大震災の風化が進むなか、両陛下が被災地に寄り添って訪問されることで、多くの日本人に災害を再認識してもらえます。両陛下は東京から約350kmの移動でお疲れのはずでしたが、笑顔で接してもらい大きな励みになりました。両陛下は国民に寄り添って励まされていますが、学識者は地方のことを知りません。両陛下の思いが有識者会議に反映されず、皇室典範の改正が見送られそうで個人的には残念です」