外交ジャーナリスト・作家の手嶋龍一氏


佐藤:そこで懸念されるのが、尖閣諸島が属する沖縄県です。いま沖縄では米海兵隊が駐留する普天間飛行場移転が問題になっています。地元県民は辺野古新基地建設に反対している。もし普天間飛行場が閉鎖され、代替施設もできないと、機動的な移動手段を持たない海兵隊が沖縄に駐留する合理性がなくなる。当然、建設中の高江ヘリパッドも必要なくなるはずなんです。

 ところが、現実には普天間飛行場を改修しながら、ヘリパッド建設も強行し、辺野古新基地建設も進めようとしている。大きな戦略があるのではなく、それぞれが事務的に進められているのですが、沖縄側からすれば自己決定権を侵害され、力で押し切られていると感じますから、かつてないほど緊張感が高まっています。

手嶋:沖縄情勢にもトランプ氏が主張する「アメリカ・ファースト」が影を落としています。アメリカは冷戦期からずっと西側諸国の盟主で、数々の戦争や紛争に介入してきた。しかしアメリカ・ファーストはその盟主の座を降り、超大国の責務を投げ出すことを意味します。そうなれば武力介入の拠点として、沖縄に基地を置く必然性がなくなります。

 また、トランプ政権が誕生しても、日米同盟は堅持されるはずと主張する日本の識者が多いのですが、問題はそこにありません。トランプ氏が同盟について疑義を表明した瞬間に日米同盟に戦略的な空白が生じ、日米関係は変質してしまう。現に中国や北朝鮮は、アメリカの抑止力が弱まっていると感じているはずです。

佐藤:同感です。私はトランプ氏が、不動産事業を手がけている点が大きいと思います。基地問題を不動産にたとえるなら、東京のデベロッパーが「できます」と言っているのに、現場の沖縄では周辺住民が猛反対して遅々として建設が進まない。それは“筋悪物件”です。そんな不動産屋の発想で沖縄問題を判断するのではないかと。

手嶋:鋭い見立てですね。トランプ氏の外交は予測不能と言われていますが、それだけにインテリジェンスの力で事態を見極めれば自ずと見えてくるものがある。日本政府が沖縄を制御しきれないと見て米軍を撤退させる可能性さえ考えられる。

佐藤:日米同盟が揺らげば、必然的に自主防衛、自衛隊増強という話になる。そうなれば、在日米軍以上に沖縄の反発は強くなるでしょう。

【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。02年5月に逮捕、09年6月に有罪が確定し、同年7月に失職。トランプ大統領誕生の影響や彼が取り組む課題に言及した『世界観』(小学館新書)など著書多数。

【PROFILE】てしま・りゅういち/1949年生まれ。NHKワシントン支局長として2001年の同時多発テロに遭遇。独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』(新潮社刊)はベストセラーに。最新刊に『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』(マガジンハウス刊)がある。

※SAPIO2017年2月号

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