「現代に通じる戦の知恵」
『孫子』/孫武著/紀元前500年頃成立/岩波文庫/金谷治訳注
紀元前500年頃に、戦争を簡単に起こす愚かさや、長期戦で国力を消耗する愚を戒めた書。「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」とは、現代の政治リアリズムにつながる指摘である。他にも、「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」など、現代の安全保障や外交の知恵に通じる教えが随所に見られる。政治哲学の書でもある。
「反乱と陰謀の本質とは」
『ガリア戦記』/カエサル著/紀元前1世紀成立/岩波文庫/近山金次訳
紀元前1世紀のローマ帝国によるガリア(フランス)遠征について、敵将ウェルキンゲトリクスなどガリア諸部族との対決を自ら記録した戦史と戦記文学の白眉である。ガリア人は気ままに戦争を望むが、人はすべて自由を熱望し、奴隷の状態を嫌うのが自然だという洞察や、反乱と陰謀の本質に触れた分析など、政治論の名著でもある。
「近衛師団の狂気の反乱を描く」
『日本のいちばん長い日』/半藤一利著/1965年/文春文庫
昭和20年8月14日から15日に至るポツダム宣言受諾をめぐる近衛師団の反乱(宮城事件)を描く。映画やテレビにもなった。帝国陸軍の下剋上など軍紀違反や腐敗の本質が浮かび上がる。大本営の中堅将校と部隊が結託して国の滅亡さえ覚悟し徹底抗戦を図った狂気は、肥大したエリート意識と稚拙な愛国心の歪んだ産物であった。
【PROFILE】1947年北海道生まれ。東京大学名誉教授。サントリー学芸賞、毎日出版文化賞、吉野作造賞、司馬遼太郎賞など受賞歴多数。2006年紫綬褒章受章。近著に『中東複合危機から第三次世界大戦へ イスラームの悲劇』(PHP新書)など。
※SAPIO2017年2月号